第61話 『衝撃の卒業式』

 1986年(昭和61年)3月13日(木)

 中学校1年生最後の月、そして3年生との最後の日。

 卒業式がやってきた。在校生であるオレはふだんと変わらない。ただ明日になれば学校に3年生はいなくなり、今日は卒業式が終われば解散だ。

 2回目の人生であるオレの、3年生を送る卒業式は、別に感慨もなにもない。ただの行事だ。3年生はクソヤンキーと由美子先輩くらいしか思い出がない。

 美人で性格も良くて、ちょっとエッチな由美子先輩とは今後も仲良くしていきたいところだけど、高校はどこにいくんだろう? そんなことばかりを考えていたわけじゃない。

 バンドのことや美咲や凪咲なぎさたちのこと、他にもいろんなことを考えながら時間が過ぎていった。

 式が終わり、3年の男子は後輩の女子からボタンをせがまれ、例のごとく全部なくなって上着全開の先輩もいた。




 オレは、というと……。

「由美子先輩……どうしたんですか? こんなところに呼び出して」

 卒業式の日に由美子先輩に校舎裏に呼び出され、いったい何だろうと変な期待が頭をよぎるが、突然の出来事に頭が真っ白になる。まったく予想だにしなかった展開だ。

「黙ってて」

 由美子先輩が抱きついてきた。柔らかな胸の感触に戸惑う間もなく、唇が近づいてきた。そのまま舌が絡まり始める。

(え……まさか……)

 ディープキスの衝撃に戸惑うオレの手を、由美子先輩が取ってそのまま自分の胸に押し当てた。制服の上からでもわかる柔らかさに、息が荒くなる。

 無意識にもんでしまう男子中学生、13脳のオレであった。

 むにゅ……。やわらけえ……。

 そのあと先輩はもう一度唇を重ね、自らブラウスのボタンを外していく。オレの手は直に先輩の胸の上にあり、柔らかな感触と硬くなった突起に、オレの体は硬直する。

 身動きできないオレを見て先輩はほほえむと、そのまま手を下に伸ばして膨らみを確かめるように触れてきた。制服のズボンを通しても、オレの反応は隠せない。

 先輩はゆっくりとベルトに手をかけ、解いていく。オレの興奮は収まるどころか、さらに大きくなっていった。

 先輩は優しく触れ、そして……。




「いや、ちょっと先輩!」
 
「シー!」

 オレが抵抗しようとしたとき、先輩はオレのチンポを握った。
 
「あ!」

 思春期真っ盛りの体は正直だ。51歳の精神でブレーキをかけようとするが、13歳の性欲には勝てない。

「あー、すごーい……」

 目をキラキラさせながら、先輩はオレのチンポをくわえた。

「あ、ちょっと先輩! だめです!」

 予想以上の快感に、あっという間に限界が訪れた。先輩は全てをのみ込んでしまう。

「濃い……」

「先輩! な、なんでこんなことを!」

「なんでって、悠真は嫌い? こんなこと」

「そ、そんなことはないけど……でもいきなりはびっくりしますよ……」

「あーでも悠真、まだこんなに元気……」

 オレは2度目の快感に飲み込まれていく。全てを終えて、由美子先輩は立ち上がると、しみじみと語りかけてきた。

「あのね悠真、私、悠真に忘れてほしくなかったんだ。だって私はもう卒業で、悠真とはなかなか会えないし、悠真はどこの高校にいくかわからないじゃん。だから、ね。……美咲や凪咲、純美あやみはこんなことしてくれないでしょ?」

「それは……」

 確かにそのとおりだった。

「私の番号と住所、教えとくね」

 そう言って先輩は、手帳から破りとった紙をオレの胸ポケットに入れた。ぼう然と立ち尽くすオレのほおに、最後のキスをして、由美子先輩は去っていった。

(これは……なんだったんだ……)

 13歳のオレは、人生初めての経験に放心状態のまま、遠くなる背中を見つめることしかできなかった。




「なに……あれ……」

 美咲の声に凪咲と純美も絶句する。校舎裏での出来事に声がでない。

「……見間違いじゃないよね?」

 凪咲が恐るおそる確認するようにつぶやく。

「うん……由美子先輩が……悠真と……」

 純美は顔を赤らめ、言葉を濁した。

 3人は校舎裏の陰から一部始終を見ていたのだ。由美子先輩の大胆な行動、そしてそれに対して受け身ながらも抵抗できなかった悠真の姿。3人は言葉を失い、ただ固まって見つめることしかできなかった。

 沈黙を破ったのは美咲だった。

「……悠真、あんな顔するんだ……」

 美咲の声は小さく、どこか震えていた。

 ふだんはつかみ所のない悠真が見せた、戸惑いと快感にゆがんだ表情。それは美咲にとって、これまで見たことのない、そして見てはいけないものを見たような、不思議な感覚を呼び起こした。

「……なんか、複雑……」

 凪咲が腕を組み、難しい顔をする。

「悠真、由美子先輩に、あんなことされて……」

「でも悠真、ちょっと抵抗してたよね?」

 純美が控えめに指摘して続ける。

「先輩に迫られて、戸惑ってるように見えたけど……」

 美咲は唇をかみ締めた。

 確かに悠真は抵抗していた。しかしその抵抗は次第に弱まり、最後には先輩のペースにのみ込まれていた。それが美咲の胸に、言いようのないモヤモヤとした感情を生み出していた。

「……どうしよう、これ……。あの、みんな……。ちょっと聞きたいんだけど、その……悠真とはキスまでって言ってたよね? その……あれ、ホント? まさかとは思うけど、あんな、由美子先輩みたいなこと……悠真としてないよね?」

 美咲がしぼり出すように、ゆっくりと、つっかかりながら聞いた。

 凪咲と純美は顔を見合わせる。美咲の真剣な表情に、2人も内心穏やかではなかった。

「……してないよ」

 凪咲が少し間を置いて答えた。

「少なくとも、私はしてない」

「……私も」

 純美も小さくうなずいた。

 実は3人ともキスだけではない。胸を触られたり、スカートの中に手を入れられたり、触られたりはしていたのだ。でも、自分からはない。

 美咲はホッとしたが、その安心と同時に新たな疑問が湧き上がった。

「……じゃあ、悠真の……あれは、初めてだったのかな……」

 美咲の言葉に、再び沈黙が訪れる。3人は校舎裏での悠真と由美子との出来事を思い返し、それぞれに考えを巡らせた。

「……どうだろうね。でも、あんな風になるってことは……初めてだったんじゃないかな」

 凪咲が首をかしげた。

「……だとしたら……」

 純美は言葉を詰まらせた。

 自分がキスした相手が、他の女の子とあんなことをしていたと考えると、複雑な気持ちがこみ上げてきた。美咲は何も言わず、地面を見つめている。

 凪咲も純美も同じ気持ちだ。初めてだったとしたら、悠真にとって由美子先輩との出来事は、どんな意味を持つのか。それは3人にとって少し怖い問いかけだった。

「……とりあえず、悠真には何も聞かないでおこう」

 凪咲が提案した。

「私たちが何か言ったら、余計にややこしくなるだけだよ」

「……そうだね」

 美咲と純美も同意した。3人はうなずき合い、改めてこの件については触れないことを確認した。しかしこの日の出来事は、3人の心に深く刻まれ、今後の関係に影響を及ぼすことになる。

 卒業式の余韻も冷めやらぬ中、3人はそれぞれの想いを抱え静かに家路についた。

 口裏をあわせて悠真とは帰らないようにしたのだが、今日は特別日。学校の行事がある日で授業がない日は礼子が悠真と帰る日だ。それが3人にとって幸いした。




 次回予告 第62話 『春休みと3連休』

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