元亀元年 四月 諫早城
「先生! お元気でしたか!」
「先生! お変わりなく!」
行く先々で海軍伝習所時代から兵学校への変遷の際に学んだ生徒が声をかけてくる。なつかしさのあまり涙を流す者もいた。
拝啓
親愛なるわが王 セバスティアン一世陛下
私フランシスコ・デ・アルメイダは、以前小佐々領内の海軍兵学校における校長を務めておりました。
その後この地域がどのように変貌し、発展してきたかについて報告いたします。
最初に、小佐々領内の教育と技術が飛躍的に発展しました。
海軍兵学校は、わずかな教員と生徒からなる伝習所から始まりました。現在では多くの優秀な生徒が卒業し、新たな技術と知識をもたらしています。
彼らは最新の海洋技術を習得し、艦隊を強化する役割を果たしているのです。
また、小佐々領には我々の思いもよらない、われらの常識を超える技術や知識が存在しています。
信じがたい事ですが、わたしは副官バルトロメウ・ディアスとともに領内の大学や研究施設を見学いたしました。
太田和忠右衛門なる学者、このお方は領主である小佐々弾正大弼殿、通称肥前様と呼ばれる方の親族となりますが、驚くべき実験を見せてもらいました。
まずは温度計なるもの。これは冬は寒く夏は暑いですが、どの程度暑く、寒いのかというのを数値で表してくれます。
どのような原理かはわかりませんが、持ち帰れるように交渉いたします。
なにやらよくわからない『気圧』と『真空』という名前の実験を見せられましたが、これには驚きました。
2つの空洞状の半球を密着させ、ポンプを使って中の『空気』なるものを抜くのです。
そうすると、両側から馬10頭で引っ張ってもはがれぬほどの力を持つのです。非常に驚きましたが、これが大気の力というものだそうです。
そして最後に、これはまた九州王の従兄弟にあたる学者、太田和源五郎秀政殿ですが、蒸気の力でおもりを持ち上げる装置を見せてくれました。
真空という状態と大気の力、圧、水を熱して気体になる力の応用のようです。
私は学者ではありませんが、将来的にはこの力を使って船を動かしたり、馬の代わりに荷車を引く事ができるそうです。
まさに驚嘆であります。信じられません。
航海技術の面でも「六分儀」という先進的な測定器具を紹介してくれました。
われらが使っている四分儀とは異なり、この六分儀は小型で使いやすく、船上での揺れにも強い特性を持っております。
最近開発されたこの器具の存在により、航海の精度が飛躍的に向上することが期待されるでしょう。
小佐々家は外交においても著しい成果を上げており、東インドの各国と友好関係を築くために、積極的な使節の派遣を行っています。
通商はもとより、観測所の設立や『ゴム』なるものの工場、現地の住民を雇って地域の経済を活性化させるなど、存在感を高めているのです。
さらに経済成長と産業の多様化においても、目覚ましい進展を遂げました。
新しい学問と技術の導入により、農業、工業、商業の各分野で革新的な発展を遂げ、領内の安定性を確保しました。
これにより、小佐々領は経済的にも繁栄しています。
当然ながら小佐々家は軍事力の向上にも力を注いでおり、戦略的な優位性を築いています。海軍兵学校卒の将校たちが、最新の軍事技術を取り入れ、艦隊の近代化と強化に成功したのです。
そのため小佐々領内では自らの安全保障を確保し、外部からの脅威に対処する準備が整っております。
火打ち石を使った銃ですが、私はヨーロッパでは聞いた事がありません。しかし、これをまねて作成すれば、わが王国の軍隊はさらに強力になるでしょう。
さらに、陛下に進呈された「望遠鏡」と「測距儀」も確認いたしました。
驚くべき事に、これら2つは海軍のすべての艦艇、ならびに陸上の砲台、そして陸軍の各部隊に配布されております。
つまり量産され実戦に投入されて、性能が実証済みの機器になります。
これらの道具は遠くの物体を詳細に観察することや、正確な距離測定を可能にし、海上や戦場での戦略を大きく変える可能性があります。
ガラスの表面を膨らまし、それを筒の両端につければできるようなのですが、わが国でも量産できそうです。
陛下、小佐々領は陛下とその王国の力をもって大いに発展し、変貌してきました。今後もさらなる繁栄を築いていくでしょう。
驚くべき技術の革新と進歩ですが、残念ながら、すでにわがポルトガルを凌駕していると言わざるを得ません。
しかしこの上は、敵対し脅威を排除するという考えは捨て去るべきかと存じます。
脅威に感じるのではなく、ともに学び、ともに大きくなっていくという考えを、お持ちになっていただくのが最善かと存じます。
毎年小佐々領より留学生を迎えておりますが、わが王国からも学生を派遣し、大いに学んで王国の発展に寄与できる人材を育てるのです。
最後になりますが、イスパニアに関して報告申し上げると、サラゴサ条約にて境界を決めているにもかかわらず、フィリピナスの先取権を主張しております。
聞けば、ヌエバ・スパーニャからフィリピナスへの往復航路も開拓した模様です。
当然ながら、モルッカ諸島より西の香料の権益はわれらポルトガル王国のものであり、不可侵のものです。
しかし、イスパニアがフィリピナス諸島を根拠地にして、東インドの国々ならびに明や朝鮮、ジパングの品々を持ち帰るならば、莫大な利益になります。
そうなれば今後、われらポルトガル王国よりも財を蓄え、強大になる恐れがあります。
ですが今、イスパニアと全面的に事を構えるのは得策ではありません。
九州王小佐々弾正大弼殿と友好関係を保ちつつ、彼らがイスパニアと事を構える際には、静観いたしましょう。
それに対して不平不満はでないはずです。
フィリピナス諸島を九州王が統治すれば、イスパニアの勢いを削ぐ事になるのは間違いありません。諸島には香料もありませんので、わが王国の痛手にはなりません。
できますれば、陛下のお返事があるまでマラッカに滞在し、情報を集めたいと存じます。
敬具
東インド派遣艦隊司令 フランシスコ・デ・アルメイダ
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