第43話 『12脳と51脳の性欲の狭間と町内4校合同音楽祭』

 1985年(昭和60年)12月1日(日) <風間悠真>

 1年の2学期最後のテスト、期末テストが週末に終わった。

 毎度毎度面倒くさいが、こればっかりは仕方がない。
 
 テストそのものは51脳の経験と転生時のギフト? のおかげで余裕だったんだが、美咲や凪咲なぎさ純美あやみに礼子、それに今回から菜々子と恵美も加わった勉強会は、なかなかに楽しかった。

 はじめは6人の女と一緒に試験勉強をすることになった時、正直不安だったんだ。

 前にテスト勉強を純美の家で、美咲や凪咲と一緒にやったことがある。

 それが一気に6人になるのだ。変な気を遣わせないよう、みんなの扱いは平等にしなきゃならない。しかもこの状況を維持しつつ、関係を深めていく必要がある。




「悠真、この問題わからないんだけど……」

 美咲が隣の席からオレの腕に体を寄せてくる。胸が当たる。今まで何度となくあったシチュエーションだし、胸もんだことはあるんだが、2人っきりの時だ。

 それぞれの状況で、ちょっとした違いでドキッとする。問題集を指差しながら、美咲はオレの顔をちらちら見上げてくる。

「お、おう……」

 美咲はオレの腕に胸を押しつけたまま、上目遣いに見上げてくる。

「悠真?」

 その仕草が妙に色っぽくて、思わずドキっとする……。おいおい、本当に中1かよ。いや待て、これは12脳か? 51脳か?

「あ、あのさ……私も、その問題がわからなくて」

 凪咲が反対側から近づいてきた。こちらも胸が当たる。
 
 右が美咲で左が凪咲。ヤバい。12脳が暴走しそうだ。特に凪咲はこの前の事があってから、妙に余裕をチラつかせているような気がするのはオレだけか?

 他の女に対して一歩リードしているという気持ちが自然と表れているのか?

「あひゃ!」

「どうしたの悠真?」

「いや、なんでもない」

 教科書とノートに目が行っている隙に、凪咲がオレの股間を触ってきたのだ。『どうしたの悠真?』というセリフを美咲と一緒に言ってはいるが、内心は何を考えているんだ?

「あ、うん、じゃあ一緒に解説しようか」

 オレは冷静を装いながら、2人の間に座り直す。

「えっと、この方程式はね……」

「あ、私もその問題、聞いていい?」

 今度は純美が前からのぞき込んできた。あの胸が目の前にある。オレは必死で問題に目を向ける。集中、集中! しかし純美の胸の谷間が……。

「純美……その、ん、んん……」

 オレは目で純美の胸を指し示す。
 
「うん?  あ!」
 
 純美は後ずさって自然を装いながら自分の胸元を手で隠し、顔を赤くしている。おいおい、本当にこの女は小悪魔だぞ?  おっとり小悪魔? 無意識小悪魔?

 オレは冷静を装いながら問題の解説をする。

 ずいぶん前から考えていたんだが、状況が許せばセックスまでイケたんじゃないか? という場面が何度もある。その一歩手前で、いや、0.5歩か0.1歩かわからんが、ブレーキをかけている。

 それはオレが根性なしで踏み出す勇気がないからか? 
 
 物事には順序があって、きちんとしたルールにのっとって……。中1でセックスなんてという道義的理由か?

 いやいやオレは一体何を考えているんだ? まあとにかく、いろんなシチュエーションを考えて、万全を期す事に全力を傾けよう。突発的な事が多すぎたんだよな、今まで。

「私も聞きたい」

 礼子が横から加わり、オレを中心に女の子たちが輪になって密着度合いが増していく。
 
「あの、私もわからないところがあるんだけど」

 菜々子と恵美も加わってきた。




 ……この勉強会を定期的に開催できたら、みんなとの仲を深められるんじゃないか。

「じゃあ次のテストの時も、みんなで勉強会しようよ」

 オレが提案すると、全員が賛成の声を上げた。

「うん!」
「いいね!」
「私も賛成!」

 よし、これで定期的に会える口実ができた。

 オレのハーレム計画は順調に進んでいる。ただし、欲望に任せすぎるのは良くない。51脳が警告を発する。一気に関係を進展させようとすれば、今の良好な関係が壊れかねない。

 ゆっくりと、でも着実に。それが大事なんだ。

「あ、もうこんな時間!」

 美咲が時計を指さす。もう日が暮れ始めている。

「お、やばい。みんな、バスの時間大丈夫?」

「うん、まだ間に合う」
 
「私も大丈夫」

 それぞれ荷物をまとめ始める。その時、凪咲がオレの耳元でささやいた。

「ねえ、次はもっと……ゆっくり教えてね♡」

 オレは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
 
 12脳が完全にオーバーヒートしそうだ。いや、落ち着け落ち着け。距離を置いていたと思ったらこの前の件もあるし、うーん、女の考えはわからん。




 ■合同音楽祭

「ねえ、南中の……なんだっけ? NICKEY&YUMA? そーいう名前のバンドがあるみたいだよ」

「バンド? 吹奏楽のこと? ブラスバンドはお姉ちゃんが高校でやってるけど……」

「違う違う、BOØWYとかBARBEE BOYSなんかと同じバンドで、でも、洋楽やってるみたいだよ」

「えー、洋楽? すごいねぇ。聴いたことあるの?」

「私の従姉妹が南中なんだけど、前の学祭で見たって。ハー……なんとかロックスとか、モト……なんとかとかいうバンドの曲らしいよ」
 
「え? 聞いたことないよ。有名なバンドなの?」

 北中の女子たちの会話だ。

「知らないけどね、すっごくかっこいいんだって! なんかハードロックとかヘヴィメタルって言うんだって」
 
「えー、なんかこわーい!」
 
「そうなんだけどさ、めっちゃかっこいいらしいよ!」




 体育館はどんどん人が増えていく。各校から二組ずつ、計八組の出演。プログラムの最後を飾るのが、オレたちNICKEY&YUMAだ。

「悠真、そろそろ準備だぞ」

 祐介が声をかけてきた。今日もMÖTLEY CRÜEのTシャツを着ている。

「うしっ! じゃあいくか!」




「Hey guys! How’s it going? Last but not least, we’re Nicky and Yuma!」

 ハノイ・ロックスやモトリー・クルーの曲というのは同じだが、『Shout At The Devil』を『Use It Or Lose It』に変更しての演奏だ。




 合同音楽祭は大盛況の内に終わった。

 でもオレ達には早急に解決しなくちゃいけない問題があったんだ。

 メンバー。

 いつまでも悟くんや健二くんの世話になっている訳にもいかない。仕事もあるだろうし、これ以上は迷惑だろう。

「なあ祐介、いい加減オレ達……」

「メンバーだろ? オレもそれは考えてた。練習ばっかりで、そっちまで頭が回らなかったってのがまずいな。このままじゃ上のステージにいけやしない」

「上のステージ?」

「ああ、やるんだったら長崎、そしてまずは福岡に出ることを考えないと。プロはそっからだろ?」

「え? (プロ?)」

「そうだ。だからまずは町内の他の学校に声をかけよう。それから下五峰市の中学にも声をかけて、ギターの経験者。このままのギターボーカルならせめて悠真よりうまいヤツな。それからドラム。悟さんや健二さんと同じレベルは正直難しいと思うけど、今やらないと、どんどん難しくなるぞ。最悪は興味のあるヤツ勧誘してやらせよう」

「お、おう、そうだな」

 オレはオレの、モテモテいちゃいちゃハーレムやりやり計画のためのバンドだったんだが、祐介はプロまで目指しているのか……。

 いずれにしても、早急に集めないといけない。




 次回 第44話 (仮)『オレファンクラブと祐介ファンクラブ』

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