1986年(昭和61年)4月8日(火)始業式
春休みはバンドの練習とバイトに明け暮れた。
あ、もちろん凪咲と礼子、それから菜々子と絵美とのデートも忘れない。言い方は悪いが、ハーレムは金と時間が必要だ。
早くも13歳にして気付くオレであった。
その間をぬって、由美子先輩にも会いに行く。
春休みの最終日には3回抜いてもらった。
あの美巨乳にそそらない男はいないだろう。形のいいおっぱいにその弾力。
あんな素晴らしいおっぱいを、オレだけのものにしておくのはもったいない。世界中の人に見せて回りたいくらいだ。
まあ、そんなことをしたら由美子先輩に怒られるだろうけど。
でも、それくらい素晴らしいものなのだ。(オレだけのものかは、定かではない)
しかし、あのフェラチオのうまさはいったい何なんだろう? まるでオレの分身が彼女の口の中で生きているかのようだった。
いや、むしろ別の生命体として、彼女の技術を貪欲に吸収しているかのようだった。もはや快感とかそういう次元ではなく、畏怖の念すら覚えるほどだった。
と、まあ、文学的に表現してはいるが、要するにセックス一歩手前の事をやりまくったってことだ。
やべえ勃ってきた。
しかし、罪悪感は皆無。むしろ、健全な男子として当然の反応だと思っている。健全な肉体に健全な精神が宿るというではないか。
オレは至って健全だ。わはははは。
新学期に向けて、エネルギーを充電できたと言えるだろう。もっとも、使いすぎた感も否めないが、まあなんとかなる。
なんとかならなかったとしても、それはそれで面白い。
そんな楽観的な考えで、オレは春休みを終えた。
しかし相変わらず、そこまでやっているのに、先輩は最後の一線は越えさせてくれなかった。
なんでだ? オレは最高に気持ちよかった。
でも先輩は?
うーん、こればっかりは51脳を駆使しても不明だ。
だって女が気持ちいいかなんて、どうやってわかるんだ?
顔を紅潮させていても、声をあげて体をくねらせても、演技だったら意味がない。それに、もしかしたら先輩は、オレのことを恋愛対象として見ていないのかもしれない。
単なる都合の良い遊び相手、もしくは下僕。それならそれで、立ち回り方を考えなくちゃ……いやいや、別に考えなくてもいい。
先輩は好きだし、もし付き合ってと言われたら二つ返事でOKするさ。
まあ、先輩がどう思っているかはさておき、オレはオレの気持ちに正直に行動するだけだ。それにもしかしたら、オレの知らないところで先輩も色々考えているのかもしれない。
どっちにしても先輩は長崎の高校に進学するから、次に会えるのは夏休みだ。
あー、どこでもドア欲しい。
「皆さん、おはようございます。昭和62年度の新学期を迎え、皆さんの元気な姿を見られて大変うれしく思います。昨年度は、日本の科学技術の躍進を象徴するように、ハレー彗星の観測に成功し、世界中が注目しました」
なげええ……。
あまりの長さと苦痛にオレの妄想が途切れた。
「また、国鉄の~中略~皆さんには確かな学力と豊かな人間性を身につけてほしいと思います。新しい知識を~中略~最後に、この1年間が皆さんにとって実り多き年となることを願っています。新入生の皆さん、在校生の皆さん、そして先生方、共に頑張りましょう」
ああ……やっと終わった。
まじなんなん、これ。
苦行以外の何物でもないぞ。なんで校長の訓示? 講話ってこんなに長いんだ? 51年生きてきて、5分以内に終わった記憶がない。
毎年毎年、同じようなことばかり話している気がするんだよな。具体的な話が全くないから、聞いているこっちも飽きてくる。
時事問題が変わるだけ。先週の入学式と何が違うんだ? もしかして、校長も毎年同じ原稿を使い回しているんじゃないだろうか。
だとしたら、少しはアップデートしてくれよ。
せめて、生徒が興味を持つような話題を取り入れてみるとかさ。でないと、マジで時間の無駄だ。立ってなきゃ間違いなく居眠り続出だろうし、内職するやつもでてくるぞ。
「はい、みんな席についてー」
うん、安定の同じ担任。
そして1年と同じ2組。
前世でもそうだったが、今世でも同じなのかな。だとすれば来年も同じ美佐子せんせだな。おっぱい揉みたい。
いや、マジで。
……いかんいかん。
教室のガラガラという音で我に返った時、美佐子先生が満面の笑顔で入ってきた。
「みんなー、今日から新しい仲間を迎えることになりました」
その言葉に、教室がざわついた。転校生なんて、この田舎じゃ珍しい。しかも新学期早々に。
「Come in, please」
美佐子先生の英語に、クラス全員が息を呑んだ。
そして、入ってきたのは──まさかの金髪に青い目のイケメン。
「What the……」
思わずオレは英語が口をついて出た。隣の祐介も「マジかよ…」と絶句している。
「Hello, everyone. I’m Luke Anderson. Nice to meet you」
ルークの自己紹介に、女子たちがキャーキャー言い始めた。当然だ。こんな美形の外国人なんて、五峰町では見たことないだろう。
「みんな~、聞き取れたかな?」
美佐子先生が笑顔で補足する。
「ルークくんは、お母さんが日本人のハーフなの。お父さんは佐世保の米軍基地に勤務されているのよ」
教室が再びざわめいた。オレと祐介はライブの時に聞いていたが、米軍基地の話なんて、みんなにとってはテレビでしか知らない世界だ。
「あの、日本語も少しできます」
ルークの流暢な日本語に、また歓声が上がる。
「じゃあ、ルークくんは……」
美佐子先生が教室を見回した。
「あそこの空き席にしましょうか」
指差された先は、なんと俺の斜め前。
「よろしく」
ルークが座る時、俺たちの目が合った。そこには確かな認識があった。春休みのライブの記憶。まさか同じクラスになるとは……。
「おい、祐介」
小声で呼びかける。
「運命ってやつか?」
「いや、これは偶然を装った必然だな」
祐介の言葉に、思わず吹き出しそうになった。まさか本当にバンドメンバーになりそうな奴が、こんな形で現れるとは。
51年分の人生経験があっても、こういう展開は予測できなかった。
マンガじゃねえか。まじで。
教室中が新入りの話題で持ちきりになる中、俺は密かに今後の展開を想像して、ニヤリと笑みを浮かべていた。
これは面白くなりそうだ。
次回予告 第70話 『おい君たち、昨日までオレと祐介をチヤホヤしてたんじゃないのかね?』

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