1986年(昭和61年)4月12日(土曜日)<風間悠真>
「美咲、どうしたの? まさか告白か? あれ、オレたちって相思相愛じゃなかったっけ?」
中学二年生が『相思相愛』って言葉を使うかどうかは不明だが、思わず冗談交じりに口にしてしまった。校舎裏には誰もいないはずなのに、美咲は周囲を何度も確認している。
ちゅっ♡
「おっほっ」
美咲のキスはあまりにも突然で、思わず言葉にならない『|音・声《おん・せい》』がでた。
正直、少しは期待していたけどさ。
「私、悠真が大好きだよ」
美咲の顔は真っ赤になっている。え、どうしたんだ急に。
「うん、ありがとう、オレも美咲が好きだよ」
オレがそう言うと、美咲は抱きついてきた。胸が当たる。
むにゅ。
「(えっ?)」
今度こそ、声にならないオレの叫びだ。
美咲の手がオレの股間に触れている。
え? 何が起きた?
美咲は真っ赤な顔をしている。
いや、当てているのか? わざと?
手は、離れない。
離れない。
……まだ離れない。
これは明らかに意図的だ。
「美咲、ちょっと……」
オレは美咲の手を優しくつかんだ。
「ごめん……だって……」
美咲は顔を真っ赤にしたままうつむいて、小さな声で続けた。
「最近、悠真のことばかり考えちゃって……」
「うん」
「えっと……あの……」
「うん」
もじもじして本題に入らない。何か言いたそうにしているけど、催促しちゃいけないんだ。こっちが『~なの?』って聞いてあげるか、黙って待つしかない。
「男子ってさーあ、その……こういうのに興味あるんでしょ? 男の人はこうされると気持ちいいって聞いたから、悠真も……喜んでくれるかなと思って」
勇気を振り絞って話しているのが伝わってくる。
顔はそむけているが、耳まで真っ赤だ。
『男子ってさーあ』の『さーあ』の語尾が上がって、照れを我慢している様子がよく伝わってきた。
いや、うん。
正解!
正解ではあるけれど、完璧ではないんだよね。
喜ぶ……うれしいのは、うれしいけど、触るだけじゃ気持ちよくはないんだよね、残念ながら。
オレは決心した。
「そうか。ありがとう。美咲の気持ち、すごくうれしいよ」
美咲を引き寄せてキスをして、股間を触っている手を握って押しつけた。
「あっ……」
美咲は思わずうつむいたが、オレはさらに強く押しつけて、ゴリゴリとこすり続けた。
「あ、あの、すっごく大きくて……硬くなってる……」
「美咲の言うとおりだよ。男はこうされるとうれしい」
さっきまで恥ずかしさでいっぱいだった美咲の顔に、少しだけ余裕が見えた気がする。自分の考えとオレの考えが一致して、共有できたから安心しているのかな。
51脳が冷静に分析を続けていると、突然、美咲が声を上げる。
「あ! もうこんな時間だ! 戻らなきゃ!」
そう言って、ちゅっとキスをして『じゃあまたね!』とニッコリ笑顔で帰っていく美咲……。
え? あれ? おーい!
ちょ、待てよ!
木○○○の名台詞(実は本人じゃない説もあるが)。
まじかよ……。
まあ、でも美咲の気持ちはわかった。
ふっふっふ~。
また一歩、野望に近づいたぜ。
「どうしたの? 何かイーコトでもあったの?」
「えっ? いいや、別に何も」
ニヤけているのを隠そうとしているオレ。自分でもわかった。
「ふーん。怪しい」
ニヤッと笑いながらそう言う礼子もカワイイ。
今日は土曜日で特別日。
特別日は、土曜日と授業がない日だ。
始業式、終業式(修了式)、入学式や卒業式など、授業がない日がそれに当たる。その日の登下校が誰と一緒なのかは曜日によって違った。
月曜日の登下校は美咲、火曜日は凪咲、水曜日は純美。木曜日の下校は菜々子、金曜日の下校は恵美。そして土曜日と特別日の下校は礼子になっている。
登校時には南小の3人がいないので、木曜日が凪咲、金曜日が美咲、土曜日が純美とジャンケンで決まっていた。
家の場所と中学校の位置を考えると、どう考えてもオレと同じ小学校の美咲・凪咲・純美と一緒に登下校する回数が多い。
でもそれは何と言うか、女子の間で暗黙の了解があったって聞いた。
最初に見つけたのは私たち、みたいなね。
帰り道に国道沿いの脇にある神社に立ち寄るのは、オレと礼子のルーティンで、ここは二人だけの秘密の場所だ。
手入れがされているのか、されていないのか、よくわからない不思議な神社。
オレの前世では、この場所に神社があった記憶がない。
転生の神様の悪戯で現れたのか、それとも単にオレが忘れていたのか、あるいは存在していたけれど知らなかったのか。
そこで毎回エッチもどきをしている。
だからもちろん、最後までじゃない。
中学生にとっては十分に刺激的な内容かもしれないが、51脳搭載の今のオレには少し物足りないのは確かだ。
それに前世ではVHSが普及し始めていたころだが、我が家にはなかったし、仮にあったとしても見れるはずがない。
実家なんだぜ?
だからものすごい想像力を駆使してエロ本を読んだり……確か、同級生の家で親がいないときに秘密の鑑賞会を開いたりしたな。
今でも鮮明に覚えている。
なんだか恥ずかしい思い出だ。
そんな映像を目に焼き付けて、家で○○○ーしたもんだよ。
うーん、何というか。
さっきの転生の神様じゃないけど、そういう満たされなかった少年時代が反映されているのか?
おそらく今のオレの性的充実度は、同級生はもちろん、全国の同世代の男子中学生の中でもトップクラスじゃないかと思う。
いや、東京や大阪はよくわからないよ。
しかし、ここは九州の西の端の片田舎。
間違いなくトップランナーだ。
ぼんやり考え事をしていると、礼子が突然抱きついてきた。
「もうっ! なんかまた考え事してたでしょ? 私といるときは、私だけに集中してほしいのに」
「うん、ごめんな」
それからキスして、胸に手を添えた。
柔らかな胸の感触が手のひらに伝わってくる。礼子の吐息が熱い。
「ん……悠真……」
礼子の声が甘く震える。
制服のブラウスの上からでも、鼓動の高まりが伝わってくる。
神社の境内は静かだ。木漏れ日がオレたちの秘密を優しく包み込む。
「あ……そこは……」
そう礼子が声を出したかと思うと、うそっ! オレは声を抑えるのに必死だった。礼子の手が、美咲よりも力強く、長く、そして動きながらオレの股間に触れている。
いや、触れているレベルじゃない。
握っている。
「れ、礼子?」
「ふふふっ……仕返し」
いたずらっぽく笑うその仕草がたまらなくカワイイが、いったいどうした?
美咲といい礼子といい、そう言えば凪咲や純美も、春休みから何かおかしい気がする。
何だ?
卒業式での由美子先輩との行為がバレたのか?
いや、あそこには誰もいなかったはず。
もしかして、家に行ってシテもらったのがバレた? いやいやいや、もっとない。完全に一人で行ったんだ。それに先輩の家の場所はあいつらは知らない。
どっちにしても、オレにとってはいい傾向だ。
美咲と礼子、うーん。順番は少し違うけど、まあいいか。
でも、なぜか礼子は触るだけで終わってしまった。
何で?
いや、やり方を知らないのか、それともわざとなのか?
あそこでオレがジッパーを下ろすか、ベルトを外してズボンを脱いでいれば、先に進めた?
いや、そういう意味では、由美子先輩は楽だったね。
全部リードしてくれた。
いや、いやいや。
まだまだ、先は長い……。
次回予告 第72話 『オレたちのMY REVOLUTION』

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