1986年(昭和61年)4月18日(金曜日)<風間悠真>
「ふふふふーんふふ、ふーんふふふーふん♪」
オレは渡辺美里の『My Revolution』を鼻歌交じりに口ずさみながら、音楽室にいる。いつものようにバンドの練習をしていると、休憩中に祐介に声をかけられた。
「何やそれ、ざまな(ずいぶん)ポップやな」
「え、あ、うーん」
「誰の曲? オレは知らねーけど」
「オレも知らねー」
鼻歌を歌っていたところを祐介&蓮&湊に聞かれてしまったオレは、そのまま素直に返事をした。
蓮と湊は違う学校なので平日は一緒に練習できないのだが、今日は開校記念日らしい。
月曜日が記念日だったら良かったのに。そんな話をしたばかりだ。
それなら、土曜日の半分と二連休になる。
「渡辺美里だよ。あのーなんだ、KTNでドラマやってただろ? 『セーラー服通り』っていう」
KTNは現在では違うが、当時はフジテレビ系列と日本テレビ系列の両方の番組を放送するクロスネット局だった。
でも当然ながら限界があって、オレは成人してから、幼少期に見られなかったアニメの存在を知るのだ。
「そうなん? オレはテレビあんまり見ねえからわかんねえや」
「右に同じ」
蓮と湊は兄弟だけあって類似点が多すぎる。
まったく違う点もあるんだが、兄弟あるあるなんだろう。
「何だよ、じゃあポップスじゃねえか。聞いた感じそうじゃねえかと思ったけど」
祐介が少し不機嫌になった。
「ん、どうかしたか?」
「いや、別に。最近邦楽にかぶれてんじゃねえかな、と思ってさ」
「それがどうした? 別にいいだろ。邦楽だってHRやヘヴィメタはあるんだし」
オレは少し強めに言い返した。祐介の言い方に少しトゲを感じたからだ。
「あー。BOWWOWとかLOUDNESSとかね」
蓮が言うと、湊もうなずいた。
見事にハモっている。
「でも、最近の邦楽アイドルやポップスは……」
祐介は言葉を濁す。
「なあ、悠真。オレたちはハードロックでいくんだろ?」
「ああ。なんで?」
その瞬間、オレの51脳が働く。
ああ、そうか。祐介は音楽に関してはかなりピュアだ。
邦楽のポップスなんて、プロとしての夢を持つアイツにとっては邪道なのかもしれない。
「いやー、でも聴く音楽まで人に強制するのはどうかと思うよ~。ニッキーくん。いろんな音楽を楽しむのは悪くないと思うぜ」
オレはあえて祐介を『ニッキー』と呼んで、肩を軽くたたく。
祐介が敬愛するモトリー・クルーのニッキー・シックスと、仁木祐介の仁木を『ニキ』と呼んで重ねて、ニッキーにしているからだ。
「まあな……」
祐介の表情が少し和らいだ。
「あ、そう言えば。知ってるか?」
「何が?」
オレにとってはどうでもいいが、話を変える話題として3人に言った。
「3年、バンドつくるらしいぜ」
「 「 「まじで?」 」 」
オレの発言は衝撃的だったらしい。
でもすぐに笑いに変わった。
「ありえねー。バカじゃねえの? 今さら始めてどうすんだ? まさか文化祭でやるのか? キツいと思うぜ~。なんせオレたちもやるんだから。子供のお遊戯会みたいになるぞ」
「あはははは! だな!」
「部活やりながらだと、個人練習と土日しか時間とれないよね? 両立は無理じゃん。卓球部とテニス部は別として、剣道部とバレー部は特に厳しいぜ」
祐介の発言に蓮が爆笑し、湊が冷静に分析した。
「まあ、いーんじゃねえの。オレたちには何の関係もねーし」
とオレ。
「 「 「だな」 」 」
「ヘーイ! お待たせ! 参ったよ。キュートなガールたちが離してくれないんだ」
「 「 「遅えよ!」 」 」
練習を終えて下校時、いつもなら絵美と一緒のはずが、今日は風邪で休んでいる。
「じゃあ、ジャンケンで決めようよ」
誰が提案したのか、凪咲が勝ったようだ。
「えへへ、今日は私が悠真と一緒に帰れるね」
「そうだな」
オレたちは歩きながら小学校へ向かうが、自転車には乗らずに押している。
おっぱいむにゅむにゅ計画は終了したのだ。すでに先のフェーズにいる。わはははは!
家に帰るなら海沿いを通った方が早い。
でも美咲や凪咲、純美と一緒に帰る時間を確保するために、わざわざ寄り道して帰るのがルーティンになっている。
「いつも思うけど、こっからの眺めはいいね」
山頂ではないが、もともと平地が少なくて起伏の激しい町だ。
オレたちは、坂の手前の商店でお菓子と飲み物を買ってグラウンドに向かう。
坂道を登ってベンチに並んで座ると、そこからはまったりタイムだ。
グラウンドの展望台は丘の上にあって、ベンチは人目を避けた場所にある。並んで座ると凪咲が少し体を寄せてきた。
「ねぇ……」
ささやくような声で凪咲が呼びかける。オレは何も言わずにキスをした。唇が触れ合った瞬間、凪咲の体が小さく震える。
「ん……」
甘い吐息が漏れる。制服の上から胸に触れると、凪咲は目を閉じて首を後ろに傾けた。スカートの中に手を滑り込ませると、凪咲は小さくあえぐ。
「あ……悠真……」
凪咲の手が、オレの股間に伸びてきた。
「じゃあ……私も……」
「え?」
まさか凪咲? お前もか? もしかして、そうすると今回こそ……。
美咲や礼子は未遂に終わった。
未遂とはもちろん、あれ。
最後までしてない、あれ。
「凪咲、いいのか?」
オレは短く言った。
長ったらしい言葉は必要ない。
「うん……いいよ。だって悠真にもっと喜んでもらいたいし、私、してもらってばっかりだから」
そう言って凪咲はさらに強くこすりつけてくる。
オレはもう我慢ができなかった。
破裂しそうなほど膨れ上がっている。
「すごく、硬い……」
顔を真っ赤にさせてはいるが、その目は興味津々で輝いていた。
オレは凪咲の手を優しく握り、ジッパーへと導いた。震える指先が金属の冷たさに触れる。
「こうやって……下ろすんだよ」
カチャリ。
小さな音がオレたちの鼓動を高鳴らせるが、ジッパーだけじゃまどろっこしい。
オレはベルトを外してズボンを下ろした。
「あ……」
凪咲の吐息が熱く感じる。
オレは彼女の手を両手で優しく包み込んで、握らせる。
そのまま上下に動かした。
「えっと……こう……するの?」
不器用だけど一生懸命な仕草に、51脳は必死に理性を保っている。13脳はすでに完全に本能に従っていた。
「そう……その調子」
グラウンドには誰もいない。風に揺れる木々の葉音だけがオレたちを包み込む。
「凪咲! ティッシュは?」
「え、あ、うん。ちょっと待って……」
凪咲は慌ててカバンの中を探り、ポケットティッシュを取り出した。右手はしっかりと握ったままだ。
「これ……」
凪咲の手が震えている。
オレは片手で受け取って準備すると、凪咲に『続けて』と促す。
次の瞬間――。
「うっ……」「きゃっ」
凪咲が目を背けると同時に、勢いよく噴き出した。
「ふう……。ありがとう」
オレの声も少し震えていた。
き、気持ちいい……!
51脳は冷静さを保とうとしているが、13脳は興奮のあまり自我が崩壊している。
凪咲がモジモジしている間に、オレは素早くティッシュを使って後始末を終えた。
「ごめんね……うまくできなかったかも」
凪咲の声は申し訳なさそうだ。
「いや、すごく良かったよ」
オレは彼女の頭を優しくなでてキスをした。
夕暮れの光が、凪咲の横顔を淡く染めている。
次回予告 第73話 『嫌で嫌で仕方がない家庭訪問』

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