第16話 水軍拠点の城下町、ビワと農産物の可能性

 沢森城は角力|灘《なだ》が一望できる丘の頂上にあった。もともと海賊の|砦《とりで》のような役割からできた城を、改修増築して現在のかたちになったようだ。

 馬に乗って坂道を下る。(初めてだけど乗れたぞ! 体が覚えているのかな)

 これはもう、なんというか城下町というより砦下村だな。予想はしていたけど……。
 
 海岸沿いに狭い平野部が広がっている。太田の港には数隻の小早船がつながれていて、少し離れて漁船がある。

 居住区という意味合いの街並みに、商店がまばらに、という表現がぴったりだ。
 
 ○河ドラマや時代劇に出てくる街のイメージまで発展していない。
 
 ここを拡張して大きな城下町にするのか、それとも経済的役割は横瀬浦にまかせて、水軍拠点的にするのか?

 結論は、同時進行で考えよう。結局自分ひとりじゃできないし。

「あら、武若丸様じゃなかですか!」

 どこか憎めない声の元気なおばあさんに呼び止められた。

 小平太と目が合い、二人して笑う。
 
 普通ならここで、無礼な! となりそうなもんだが、それはない。

 どうやら俺はそんな立ち位置らしく、そもそも父親である城主自ら領民との垣根があまりない。

「マツばあちゃん、今は武若丸様ではなくて元服して平九郎様なんだよ」

「ほんなこて! (本当だ)まちごうてしもうた」

 三人で笑う。ついでにいろいろ聞いておこうかな。彼を知ればなんとやらだ。

「ねえマツばあちゃん、このへんのお百姓さんは、何をつくってるのかな?」

 ? ? という顔をしたマツばあちゃんが答える。
 
「うーん、なんでもつくりより(つくって)ますよ。例えば……米、麦、それからごぼう、かぶ、なす……大根。それからキュウリ、あとはみかんとか、いろいろ」

 ! みかん! そうだ! これを使って一儲けしようと考えてたんだ! でも今回の産物のアイデアじゃない。ゆっくり考えよう。

「ビワはつくってないんだね」

 マツばあちゃんは不思議な顔をして答える。
 
「つくりよりますよ」

 と言って指さした。

「つくりよるっていうか、自然にはえとる(生えてる)っていうかわかりませんけど。そいにあんまい(それにあんまり)金にならんしねー」

 そうなの? 特産品でそれなりの値段で売れてたと思うけど……。

 街の隅に目をやると、確かに木に生っている実がある。でもあれはビワじゃない。

「ばあちゃん、あいはビワじゃなかばい。ビワはまっと黄色うして卵んごた形ばしとる」

(あれはビワじゃないよ。ビワはもっと黄色くて卵のような形をしている)

 長崎弁移った! いや、もとに戻った! ……ごほん! 気を取り直して。
 
 マツばあちゃんは不思議そうな顔をしている。
 
「ま、まあ、それはいいよ。ありがとね。また!」

 ボロが出る前に退散するとしよう。

 前世のビワはもう少し後の時代なのかな? もしくは時間をかけて品種改良とか。果実としては旨みはないかな。
 
 あ、でもビワの葉療法とか聞いたことがある。薬としては使えるかも。

 あと……キャベツやほうれん草、すいかや人参、さつまいも。かぼちゃもまだ。
 
 これは南蛮の匂いがするなー。
 
 前世でつくっていたから天候は問題ない。あとは品種が違わなければOKだな。今後の課題だ! サツマイモは|飢饉《ききん》対策にもなる。

(切り干し大根見なかったから、つくってもらっておかずにしよう!)

 誰でも簡単に、お金がかからず利益になるもの。今回のアイデアは出なかったけど。収穫はあり。

 次は漁村を回ってみよう。

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