沢森城は角力|灘《なだ》が一望できる丘の頂上にあった。もともと海賊の|砦《とりで》のような役割からできた城を、改修増築して現在のかたちになったようだ。
馬に乗って坂道を下る。(初めてだけど乗れたぞ! 体が覚えているのかな)
これはもう、なんというか城下町というより砦下村だな。予想はしていたけど……。
海岸沿いに狭い平野部が広がっている。太田の港には数隻の小早船がつながれていて、少し離れて漁船がある。
居住区という意味合いの街並みに、商店がまばらに、という表現がぴったりだ。
○河ドラマや時代劇に出てくる街のイメージまで発展していない。
ここを拡張して大きな城下町にするのか、それとも経済的役割は横瀬浦にまかせて、水軍拠点的にするのか?
結論は、同時進行で考えよう。結局自分ひとりじゃできないし。
「あら、武若丸様じゃなかですか!」
どこか憎めない声の元気なおばあさんに呼び止められた。
小平太と目が合い、二人して笑う。
普通ならここで、無礼な! となりそうなもんだが、それはない。
どうやら俺はそんな立ち位置らしく、そもそも父親である城主自ら領民との垣根があまりない。
「マツばあちゃん、今は武若丸様ではなくて元服して平九郎様なんだよ」
「ほんなこて! (本当だ)まちごうてしもうた」
三人で笑う。ついでにいろいろ聞いておこうかな。彼を知ればなんとやらだ。
「ねえマツばあちゃん、このへんのお百姓さんは、何をつくってるのかな?」
? ? という顔をしたマツばあちゃんが答える。
「うーん、なんでもつくりより(つくって)ますよ。例えば……米、麦、それからごぼう、かぶ、なす……大根。それからキュウリ、あとはみかんとか、いろいろ」
! みかん! そうだ! これを使って一儲けしようと考えてたんだ! でも今回の産物のアイデアじゃない。ゆっくり考えよう。
「ビワはつくってないんだね」
マツばあちゃんは不思議な顔をして答える。
「つくりよりますよ」
と言って指さした。
「つくりよるっていうか、自然にはえとる(生えてる)っていうかわかりませんけど。そいにあんまい(それにあんまり)金にならんしねー」
そうなの? 特産品でそれなりの値段で売れてたと思うけど……。
街の隅に目をやると、確かに木に生っている実がある。でもあれはビワじゃない。
「ばあちゃん、あいはビワじゃなかばい。ビワはまっと黄色うして卵んごた形ばしとる」
(あれはビワじゃないよ。ビワはもっと黄色くて卵のような形をしている)
長崎弁移った! いや、もとに戻った! ……ごほん! 気を取り直して。
マツばあちゃんは不思議そうな顔をしている。
「ま、まあ、それはいいよ。ありがとね。また!」
ボロが出る前に退散するとしよう。
前世のビワはもう少し後の時代なのかな? もしくは時間をかけて品種改良とか。果実としては旨みはないかな。
あ、でもビワの葉療法とか聞いたことがある。薬としては使えるかも。
あと……キャベツやほうれん草、すいかや人参、さつまいも。かぼちゃもまだ。
これは南蛮の匂いがするなー。
前世でつくっていたから天候は問題ない。あとは品種が違わなければOKだな。今後の課題だ! サツマイモは|飢饉《ききん》対策にもなる。
(切り干し大根見なかったから、つくってもらっておかずにしよう!)
誰でも簡単に、お金がかからず利益になるもの。今回のアイデアは出なかったけど。収穫はあり。
次は漁村を回ってみよう。
コメント