■佐世保湾上 松浦隆信
「なんだこれは! わしは夢でも見ておるのか?」
八隻あった松浦水軍の船は五隻沈められ、海上は漕手、兵であふれかえっている。
残りの三隻も沢森海軍の関船と小早群に包囲され、海兵に乗り込まれて白兵戦が行われている。もはや時間の問題であろう。
「殿! この船はもうダメです! 若様をつれてお逃げください!」
近習の一人がそう言いながら、脱出用の小舟の方へ誘導しようとしている。
「と、こ、ろ、が、そうは問屋が卸さない? だっけか? まあいいや何屋でも。参る!」
司令室に乗り込んで、二人に襲いかかった人物がいる。近習は助けを呼びにいったのか逃げたのか、居なくなっていた。
「誰だ貴様! 名を名乗れ!」
「名乗れって、そっちが先だろうが! ま、知ってるけどね。松浦印山、隆信? で、そっちの若いのが、源三郎鎮信……? まあいいや嫡男だな」
「おのれ!」
鎮信が斬りかかろうとしたその瞬間である。
「司令! ご無事ですか!」
戸を蹴破る様にして、十数人の兵がなだれ込んできた。
「良かったご無事で! 何をなさっているのです! 艦隊司令がこんな事して! もしもの事があったらどうするんです!」
「何言ってんだ惟安! お前も艦長だろうが。しかも旗艦の」
勝行の言葉に一瞬固まる惟安である。
「そんな事より……取り押さえろ!」
十数名の兵が二人に襲いかかった。
さしもの二人も二、三人に手傷を負わせたものの、そこは屈強な海兵である。たちまち取り押さえられ、連行されたのである。
「この件は、殿に報告いたします!」
「ああ、お前の件もな」(……旗艦に戻りたくない……)
惟安は苦虫を噛み潰している。
沢森艦隊 旗艦 艦上 沢森政忠
「何をやっているんだ、お前は?」
「いや、これには、ちょっとした手違いがありまして……」
「あったとしても、お主の仕事ではなかろう」
自分の目が笑っていないのはよく分かる。
「できる限り敵兵は助けよ。全員乗せていくわけにはいかないから、元気な者は武装解除して陸に下ろせ。友軍を助けにいくぞ」
二人を営倉に入れた後、全艦が早岐の瀬戸に進入し、葛の港、宮村城方面に舵を切った。
南風崎から宮村城までの戦場
上陸した小佐々軍であったが、松浦軍の急襲を受け浮足立っており、なんとか体勢を保ちながら防御しつつ宮村城へ向かっていた。
「申し上げます! 瀬戸入り口に陣取っておりました松浦水軍壊滅! 隆信、鎮信親子は捕らえられておりまする!」
「あいわかった! ものども引けい! 我らの敵は針尾ぞ! まずは北の牛の岳城を落とす! 続け!」
佐志方杢兵衛は反転、針尾氏の出城、牛の岳を目指した。
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