同刻 横瀬浦
ひゅうううううん、どがしゃああん。ひゅううううん、どすん。
「なんだ? なんの音だ!」
針尾伊賀守は乱戦のなか、兵卒に尋ねる。
「わかりませぬ。なにやらお城の方から聞こえてくるようですが……」
「何? 城から?」
伊賀守は敵兵を斬り伏せ、合間に城に目をやる。
なんだあれは? 城から煙が! どこだ! どこから狙っている? まさかあの砲台か? いやそれはない、遠すぎる。ではどこから……。
「よそ見しちゃあいけねえな!」
小佐々軍の若武者が伊賀守に斬りかかってきた。
「なんの!」
切り結び、押しやる。数合打ち合った後に、叫び声が聞こえ、大きくなる。
「大変だ! お城が燃えている! お城が! ……燃えて、落ちたあああ! ! !」
なんだと! 城が落ちただと! ばかな!
伊賀守は一瞬力が抜け、乱戦の中で兵を押しのけて叫び回るが、その者にぶつかってよろけてしまった。
ドス! ! 脇腹に熱い物を感じる。
「だーかーらーよそ見すんなっていっただろ!」
さきほどの武者が刺さった刀を抜いて、伊賀守に斬りかかっていく。
「猪口才な!」
受けるが、力が入らない。だんだんと、力が抜けていく。血が、とまらない。
ぶしゅう!
鮮血とともに、首が、落ちた。
「敵将! 針尾伊賀守! 第一即応旅団、第二連隊、小田賢光が討ち取ったりいー!」
大将が討ち取られたとあって、もともと乱戦だった敵兵は、城の状況もあいまって敗走した。
第三連隊を苦しめていた別働隊も、動揺が伝播したのか、それとも城の状況を理解してなのかは不明だが、蜘蛛の子を散らす様に逃げ出した。
小佐々海軍は巣喰ノ浦から密かにでた軍船から、砲の射程まで海上から近づき砲撃していた。
弾に火薬はなく、ただの金属球だったが、命中したところが火を扱っていたのだ。
「良い! 敵兵は追うな! 負傷者の介護を行い、設備の破損状況を知らせよ!」
そうして少し落ち着きを取り戻した頃、第三連隊の小田増光が第二連隊の陣地に到着した。
「申し訳ありません。兄上、ご負担をおかけいたしました」
「よい、お主でなければ、たちまち陣を破られこちらも危うかったであろう。誰であっても難しい局面であった。それに……」
「それに?」
「今、おぬしとわしは同列なのじゃ。二人の時や兄上と三人の時は昔と変わらぬが、現場においては気を遣うな。何のための役職かわからなくなる」
「……わかった」
しばらくして針尾城から、降伏の使者がきた。
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