同月 小佐々城 小佐々弾正大弼純正
そうか、やはりまだダメか。
報告を聞いた俺はため息をついていた。
2年前に始めた椎茸栽培がうまくいってないからだ。もちろん、すぐに栽培できるとも思っていなかったし、できたとして、どの程度栽培可能なのかわからなかった。
しかし、運任せのナタ目法って、本当に運だな。
直射日光が当たらずに、適度に湿っていて適度に暖かい。なんとなくイメージできるが、完全に胞子任せで運任せ。そりゃあそうか。
ナタで切れ目を入れて、胞子が飛んでくるのを待っているだけなんだから、それなら普通の木と同じ。
それでもそのやり方で胞子を付着させる方が、確率が高いのだろうか?
いずれにしても正直採算がとれるレベルまでは、到底至っていない。春、夏、秋、冬、見てきたが、全く数が足りない。
この方法は何年やっても変わらない、それが結論かもしれないな。
確率と収穫量がわからない。当然種駒法(丸太の切り込みに椎茸菌が付着した木片を打ち込む方法)も考えていた。
いたのだが……、これがうまくいかない。椎茸の菌の培養がうまくいかないのだ。うまくいくときもあればいかない時もある。
常にうまくいく条件でなければ大量の種駒などできない。
その時である。
「殿! 殿! とのおおおおおお!」
次第に大きくなるその声は、間違いない、忠右衛門だ。
「何事だ、騒がしい」相変わらずだ。
「出来ました! 出来ました!」
「だから何がだ!」
「……温度計が、出来ました!」
「なに?! でかした!」
よし、よし、よし! よし! ! これで温度管理ができる。ペニシリンはもちろん、しいたけの菌の培養やイースト菌の培養、温度管理が必要な物、できるぞ!
忠右衛門をみると、一升瓶くらいのガラス瓶を持っている。
木の栓でフタがされてあり、注射器よりも少し細いくらいのガラス管が刺さっている。ビンの中の水は赤色だ。
管には0から100の目盛りがついている。氷室の氷にくっつけて、それからお湯を沸かして測ったんだろう。原理的には簡単なんだが、やはりガラスか? 瓶はまだしも、細長い管をつくるのに時間がかかったのだろう。
いずれにしても一歩前進だ。
これで100%なんでもできるわけじゃないが、少しずつだ。
後日、安定的な種駒の製造に成功。原木栽培へと移行した。
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