第395話 ポルトガル大艦隊と彼我の戦力差を考える

ポルトガル大艦隊と彼我の戦力差を考える 新たなる戦乱の幕開け
ポルトガル大艦隊と彼我の戦力差を考える

 元亀元年 三月

 5万の大軍で越前に攻め入った織田軍は、田植え前という短期間ではあるが、当初一向一揆と織田・浅井軍で挟撃する予定であった。

 しかしここで、織田・浅井連合軍(以下連合軍)にとって予想外の事が起きたのだ。

 一揆衆が撤退した。

 田植え前だとしても早すぎる。誰もが4月の半ばくらいと見越していたのだが、半月ほど早い撤退であった。石山本願寺が動いたのか? しかし、本願寺に動きはない。

 これにより朝倉軍は南に戦力を集中できるようになった。それでもまだ朝倉軍2万対織田・浅井連合軍6万である。兵力差は圧倒的だ。 

 しかしここで、信長にとってもうひとつの大誤算が発生した。

 摂津池田城の池田勝正が、荒木村重に同調した家臣の池田知正によって追放されたのだ。摂津は織田・義昭陣営の支配下とは言え、完全に被官化しているわけではない。

 少しの動揺で右にも左にも傾くような国人衆が集まった国なのだ。

 しかして信長が危惧していた通り、西摂津の|蒲公英《たんぽぽ》城(道場城・道場松原城)の松原義富、落葉山城の有馬国秀らがこぞって寝返った。

 この裏には三好三人衆か? それとも本願寺か?

 純正は純久に、今年は『動く』から、注意して綿密に連絡を送るように頼んでいたので、逐一情報が入ってくる。

 しかし京都の純久は旅団規模の兵力を保持しているとは言え、検非違使別当と京都所司代である。

 一昨年の三好の襲来とは違い、摂津で起きている。

 しかも京都に攻め入る気配もないため動けない。信長は長政に朝倉を任せ、陣払いをして軍を再編制後、摂津へ向かったのだった。

 純正は、三人衆の関与を疑いつつも確証が持てなかったため、南回りは野根城から阿波の国境まで、北回りは仏殿城へ兵を動かし、いつでも白地城をうかがえるように指示を出した。

 

 

 どおん、どおん、どおん……。

 19発の礼砲が鳴り響いた。ポルトガルの艦隊が佐世保に向かっているという、種子島の分遣艦隊からの連絡を受け、純正が事前に準備させたのだ。

 さすがに国王である元首が乗っているはずはない。ただ、この時代の艦隊司令官は全権を委任されている場合も多く、極めて重要な訪問と考え国賓待遇の19発なのだ。

 撃ったのは西彼杵半島北端にある、小佐々家中で最初の砲台。石原岳堡塁である。その後、佐世保湾に入る水道の対岸にある高後崎にも複数の台場が築かれ、カルバリン砲が設置されている。

「これは……でかいですな」

 海軍大臣の深堀純賢が言う。

「金剛丸の二倍近い大きさでしょう」

 純賢の分析に勝行が続く。

「それに、なんだあの砲の多さは。あんなのと正面切ってやったら、すぐに沈められるぞ」

 純正は自らも望遠鏡をのぞいて確認する。

「さすが海上帝国ポルトガルの艦隊だな。威容が違う。うん?」

 純正は近づいてくる艦隊旗艦や二番艦を観察してあることに気づく。

 ……やはり、直射だ。なるほど、であれば火力勝負になるから、この砲門数の多さには納得できる。

 仰角は、あげても5°程度だろう。

 小佐々海軍の艦艇は、ポルトガルの軍艦の真似をして改良と改善をしているが、その設計思考が違う。接近戦を想定していないのだ。

 もちろん、白兵戦のために海兵は乗艦している。しかし、近距離の撃ち合いや白兵戦より、アウトレンジでの戦闘で終了するように、飛距離を伸ばすため仰角は50°まで可能にしてあるのだ。

 ※ポルトガル海軍遠征艦隊

 サンタ・カタリナ・ド・モンテ・シナイ:旗艦: キャラック船
 排水量: 約800t
 全長:38m
 乗員:約400名
 兵装:カノン砲140門

 サン・クリストファー:キャラック船
 排水量:約700t
 全長:32m
 乗員:415名
 兵装:カノン砲110門、他船首・船尾砲
 
 サン・ミゲル/サン・ガブリエル:ガレオン船
 排水量:305トン
 全長:36.5m
 乗員:80名
 兵装:カノン砲32門

 キャラヴェルラティーナ×5隻
 兵装:デミカノン砲10門

 補給艦:兵装:ファルコネット砲6門(防御のため)

 これに対し佐世保湊の西海鎮守府、小佐々第一艦隊は次の通り。

 金剛丸
 艦種:ガレオン船
 排水量:500トン
 全長:55.35m
 全幅:11.25m
 吃水:3.8m
 兵装:カルバリン砲 x 18門
 乗員数:200名
 
 古鷹・加古
 艦種:ガレオン船
 排水量:400トン
 兵装:カルバリン砲 x 16門
 乗員数:160名

 天龍・龍田・球磨
 艦種:ガレオン船
 排水量:300トン
 兵装:カルバリン砲 x 14門
 乗員数:120名

 夕凪・初春
 艦種:キャラベルラティーナ
 排水量:100トン
 兵装:セーカー砲 x 6門
 乗員数:40名

 現状は補給が必要な航海はないので、補給艦は組み込まれていない。しかし、今後は大型キャラック、もしくはガレオンが必要になるであろう。

 総トン数と砲門数で比べたら圧倒的にポルトガル海軍が勝っている。と言うことは、スペインも同程度の海軍力を持っていると考えるべきだ。そう純正は考えた。

 砲門数を増やし、大艦巨砲でいくのか?

 詰め込めば500トン級でも70~80門は積載できそうだが……。それとも砲の飛距離と性能改善につとめ、射撃観測や管制に力を入れるのか。

 このままスペインがおとなしく引き下がるとは思えない。

 フィリピンの要塞には順次大砲を追加していくとして、本格的な艦隊戦に向けて、……観測、気球、気球の開発研究が急務だ。

 それから揺れ、風向風速はどうにもならないが、揺れは、なんとかなるか?

 スタビライザー? ビルジキール?

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