第24話 隆信、激昂 

 永禄四年 四月 平戸城 松浦隆信

「なに!?」

 すっくと立ち上がって

「それは誠か? 九郎討ち死にとな? ……勘解由もか??」

 腰が抜けたかのようにどすんと座る。

 あり得ぬ、あり得ぬ! あり得ぬぞ!

「また、敵方の沢森兵部小禄政種、鉄砲傷がもとで重症との事、一時は命をとりとめたものの、生死の境をさまよっている由にございます」

 忍びの言葉に

「それは重畳! 重畳だが、しかし……」

 怒りが収まらない。

「安経、弔い合戦じゃ。その方もわしと同じで、その悲しみと怒りもいかばかりか。あたうか?」

「あたいまする」

 安経は目をつむり、感情を抑え、頭の中でしっかり整理した後、こう続けた。

「しかし、今はその時ではございませぬ」

 籠手田安経は冷静に分析しているようだ。

「沢森の当主が危篤とは言え、沢森はそれすなわち、小佐々です。また、相神浦を押しているとは言え、完全に屈服させたわけではありませぬ」

 安経は続ける。

「五島もしかり。東の波多もなにやら不穏な動きをしております」。

 冷静な分析に、少しずつ自我が戻っているのがわかる。

「こたびの戦、失うものはあっても、得るものはのうござった。軍船十二隻に兵三百。決して少ない数ではありませぬ」。

「うむ、それで」

「今また大軍を率いて南下し、小佐々と雌雄を決して勝利したとしても、その間隙をついて波多、有田、志佐、相神浦、大村が、大挙して平戸に攻め込むのは必定にございます」

「では、どうする?」

 安経に聞く。

「さればまず、動かぬ事にございまする。弟君九郎様と、筆頭家老であった勘解由の討ち死には、少なからず家中に不安を与えます」

 目をつむり、じっと考える。

「お屋形様には腰をすえて構えていただき、家中の不安を取り除きます。同時に周辺の有力国人の動きに目を光らせ、情報収集と調略でもって傘下にしていくのが上策と存じます」

「あいわかった。よきにはからえ。口惜しいところではあるが、この雪辱をはらすのはまたの機会としよう」

 は、と深々と一例した安経は、すっと立ち上がると静かに部屋を出ていった。

 どすん! ……どすんどすん!

 柱を叩く音が聞こえたような気がした。無理もない。幼少の頃から二人でわしをささえ、平戸松浦家を大きくしてきたのだ。冷静でいられるはずがない。

 この恨み、必ずはらす。

コメント