第21話 推参!深沢勝行。蛎浦の海戦③

歴史改変仕方ない。やること多すぎです。

 未一つ刻(1300) 沢森政忠

「妙だな」

 寺島水道をまっすぐに南下して、大島と蛎浦かきのうら島の間にある中戸瀬戸に向けて進路を西にとってしばらくした頃、親父がポツリとつぶやく。

「いかがされましたか?」

「島を見てみろ。蛎浦みなとの煙が消えている。崎戸島の本郷城の煙はそのままだ」

「いかなる事でしょう」

「わからん。わからんが、俺が攻めるなら、城は攻めん。攻め取ったところで兵糧が持たんし、こちらから近すぎる。すぐに取り返されるだろうしな。平戸から見れば遠すぎるのだ」

 親父は戦術的な事ではなく、戦略としての城攻めの愚を話している。

「俺ならまず、港を襲撃して船が寄港できなくする。しかる後、小佐々や沢森は頼りなし、銭を払っても守ってくれるかわからんと、噂を流す」

 事実、小佐々と沢森が警固料(警備料)と帆別銭(入港税)で潤っている事は確かだ。

「その上で平島と江島を落とし、五島航路の利得の権を奪う。そして我らをじわりと弱らせてから、相神浦松浦氏、佐志方氏、針尾氏を順につぶして我らを攻める。これが一番危うからざる策だ」

 力攻めではなく、経済的に弱体化させてから攻めるのが、被害が少なく効果的だということなのだろう。

「なにかの罠にしても、近くで見んとようわからん。最初は二手に分かれようかと思っていたが、まずは事の様(状況)を確かむるが先ぞ」

「父上、城が攻められているのなら、急ぎ助けに行ったほうが良いのでは?」

「なに、あの城は簡単には落ちぬ。あやつがおるしな」




 ■同日 同刻 本郷城 深澤義太夫勝行

「まあぁっっったく! いったいあの親父はなにやってんだ!」
 
 襲ってきた敵兵を斬り、蹴飛ばしながら、悪態をつく。

「若、もうへばったのですか?」

 家臣の三十郎が言う。

「へばってなどおらぬわい! ただ、豪快さが取り柄のあの親父にしては、来るのが遅くないかと思ってな!」

 また一人、倒す。

「沢森の殿はああ見えて思慮深い方です。きっと何か考えがあるのでしょう」
 
 どうにも考え方の違いがあるようだ。




 ■同日 同刻 敵旗艦上 一部勘解由(いちぶかげゆ)

「ええい勘解由よ! まだ城は落ちぬのか!」
 
 イライラして九郎様の扇子をたたく手に力が入る。

「は、なにぶん砂浜から城まで郭がいくつもあり、一本道ゆえ、こちらに数の利があっても一気呵成かせいには攻めきれないのです」

「何を言う! そちもこの程度の小城、落とすことは簡単だと申しておったではないか」

「簡単、とは申しておりませぬ。事前に策を練り、しっかりとした手順にそって攻めれば、落ちない城ではない、と申し上げたまでです。しかも力攻め一辺倒ではこちらの被害も大きくなります」

「ええいだまれ! その方わしを愚弄する気か!」

「めっそうもありません! ただお屋形様は、港を焼き払って船が立ち寄れなくするだけでよい、そう命じられていたではありませんか」

「そんな事はわしでなくても誰でもできるではないか。兄に無理を言って、せっかく大任をおおせつかったのだ、小城のひとつくらい手土産にせねばなるまい!」

 頭に血がのぼっておられる。もはや何もいうまい。あとはどれだけ被害を少なくして撤退できるかを考えるとしよう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました