さて、さっきの四項目にいろいろと当てはめて考えてみよう。
一、重要で緊急性の高い仕事。
二、緊急ではないけれども重要度が高い仕事。
三、重要度は低いけれども緊急性が高い仕事。
四、重要度と緊急性が低い仕事。
この中で重要な事、それは生き残る事。俺の家族と友達や、大切な仲間やみんなが、笑って過ごせる事。これが最大であり唯一の目標。四は、まあ、あればいいな的な? 感じかな。
そうするとまずは大村との同盟、横瀬浦の開港、周辺領主との同盟もしくは友好関係の構築。これが最優先課題だな。攻め込まれない(舐められない)ためには武力が必要だから、武器弾薬も必要になってくる。
金がいる。考えていた案、さっそくやってみるか。ばあちゃんがやってきた。
「城なんか初めてやけど、村んもん(村の物)とはえらい違うなあ」
ばあちゃんの、皮肉なのか現実を直視した感想なのか、それともなんとかしてほしい切実な願いなのか? ……そういう意図が見え隠れした言葉に、はっきりと答える事はできなかった。
多分ここだけじゃなく、日本全国そうなんだろうけど、あまりにも貧しすぎる。うちは石高は少ないが、海から上がる税金で潤っている分、他よりましなのだろう。
それでも、貧しい事に変わりはない。俺が変えていかなければ。
「それで、今日はどげんしたとね? 武若丸様」
「無礼な! 平伏せぬか! それに武若丸様ではない、平九郎様だ!」
隣にいた深作治郎兵衛兼続(元傅役、現お目付け役、口うるっさい!)が、ばあちゃんを睨みつける。(悪い人じゃないんだけどね)
ばあちゃんは、はいはい、といった感じで平伏しようとする。
「よい」
と一言いって兼続を手で制する。
「治郎兵衛、すまぬが少し外してくれぬか」
「は、ですが……」
「よいのだ」
「は、それでは何かありましたら、お呼びください」
と下がる。
■誰もいなくなって
「ごめんねー、ばあちゃん」
俺は近寄ってばあちゃんを立たせる。
「よかさ。お侍さんって、みんなあがんもん(あんなもん)やろ? 平九郎様や殿様、あ、もう平九郎様が殿様か。殿様と大殿様が変わっとるだけやもんね」。
俺は声を出さずに笑顔だけで苦笑いした。
「小平太、お茶持ってきて」
は、と小平太は下がる。
「で、ばあちゃん聞きたいんやけど、洗濯ってどがんしよる? (どうやってる?)」
「どがんって(どうって)、カマドとか囲炉裏の灰ば集めて樽ん中に入れてから、水ば入れて、出てきた灰の汁で洗いよるよ」
「あー、なるほど、原始的な石けんのもとみたいなもんはあるんやねえ」
「げんしてき?」
「いや、こっちの話で」
「油はなんば使いよっと? やっぱり菜種の油?」
「まあそうやけど、高っかけんね。高っか高っか。六升で4百文」。
「もったいなかけん、明るうなったら起きて、暗うなったらねよるったい」
……それって、生きるためだけに働いている、まさにそれやん。
でも、豊かになるには時間のゆとりって、絶対必要だし、行灯に油使って内職しても、それ以上の金になるならOKじゃない?
灰はタダだし、油が確か……石けん4個つくるのに……220グラムだったか? だったか? だろう? まあ、このへんは作りながら値段考えればいいや。
一升が1.8リットルだから、六升で10.8リットル。10,800グラム。多分水と違ってるから多少の誤差はまあいい。これを220で割ると、ざっくり49個。400文、いや諸々の経費を足して500文だとしても、単価は10文。1文50円で500円か。
1,000円? 1,500円で売る? 前世価格で考えたら超高いな。でも、庶民でも手がでない金額じゃないし、商人や武家や公家に売ったら絶対儲かる。(ボロ儲け!)
量産できたらもっと値段下がるだろうしね。
値段は、おいおい決めよう。
「あ、そいからね、菜種の油って、菜の花の種やろ?」
そう、です、が……?
「あれ、田んぼの終わってから、田んぼに植えて、春にとったらいいんやない?」
(秋に種まいて春にとったらいいんじゃない?)
「みんなでしようって思うたとばってん、色々そろえるとに金のかかっし、人も足らんけん止めたっちゃんね。お城でやったらよかっちゃない?」
(やろうとしたけど、人、金不足でやめた)
神! 神やんばあちゃん! ひょっとして、ひょっとするぞ……。
「あとさ、もう一個聞きたいんやけど、粘土って知っとる?」
「ねんど? なんねそれ?」
(あー、粘土は知らないかあ)
ほら、あの、柔らかくて手でこねられる、灰色の土……。
「ねばつち、の事ね?」
そうなの? うん、多分そう!
「そいやったら、この辺にはなかねえ……波佐見あたりに行ったら腐るほどあるんやろうけど」
波佐見……! 波佐見焼き! 粘土! ビンゴ! 有田! 伊万里!
神だ! まじ神だ! ばあ神様だ!
炭と粘土で鉛筆をつくろう。消しゴムはまた後で。
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