第535話 決戦前夜 上杉軍28,000(?)vs.立花道雪軍50,000

越佐海峡海戦①敵艦見ゆ 対上杉謙信 奥州東国をも巻き込む
越佐海峡海戦①敵艦見ゆ

 天正元年 四月一日 越中 増山城 巳の一つ刻(0900)

「おや? 孫三郎殿、いささかぜいが少ないのではないか?」

 越中における上杉勢の最前線である神保氏の居城増山城で、到着早々謙信は、神保の現当主である長住に尋ねる。

「面目次第もございませぬ。陣触れは出しておるのですが、国衆の集まりが悪く、二千ほどにございます」

「ふむ、いけませんね。国衆を束ねる力も、守護、いや守護代としては重し(重要)にござろう……」

 謙信に付き添っている、同じく越中守護代の椎名康胤はほくそ笑んでいる。射水郡いみずぐんの菊池武勝のみならず、同じく射水郡の守山城主、神保氏張も病気を理由に参陣していないのだ。

「さて、いま小佐々の勢はどのあたりか?」

「は、守山城下に詰めておりまする。数は約四万を超えるかと」

 側に控える夜盗組の頭領が答える。

「左様か。まあ、積もりの(想定)内よ。さてもさても(さてと)、いかに臨むかのう……ふふふ」

 ……。

「御実城様、いかがなさいますか?」

「……。うむ、やはりこれがよかろう。決めた。何もせん」

「? なにも、なさらないので?」
 
「左様、何もせぬ」

れど、ここまで来て何もせぬでは兵の士気に関わりますぞ?」

「まあ待て、今はせぬ、と言うたのだ。越中のいくさに小佐々が出てくるとは、いささか案に違う事(予想外)ではあった。然れどこれはこれでよい。伝兵衛よ、指図の通りいたすがよい」

「はは」

 指示を聞いた忍びの頭領伝兵衛は返事をして静かに去って行った。

 

 ■守山城

「それで道雪殿、以後はいかがなさいますか?」

 寝返りを奨めた訳ではないが、予想外の菊池武勝の参陣で評価を高めた畠山義慶よしのりが、守山城主である神保氏張も寝返らせたのだ。

 当初、上杉方で出陣の準備をしていた氏張も、小佐々と畠山の介入、そして菊池武勝の裏切りによって心を決めた。

 その氏張が心配そうに道雪に尋ねる。

「安芸守(神保氏張)殿、そう焦りなさるな。われらは大軍にて、全てがそろうのに時が要り申す。されどそれは上杉も同じ。ここ一日二日は大きく打ち合う(戦う)事はないであろうから、しかと差し固めて(警備して)おくが肝要かと存ずる」

「然れど敵は謙信、われらを打ちたゆませる(油断させる)策やもしれませぬぞ」

 氏張は気が気ではない。

 謙信の強さは身をもって知っているのだ。

 今、自分はその謙信を裏切ってここにいる。一分一秒を惜しんで、早々と決着をつけたくて仕方がないのもうなずける。

「安芸守殿、仮にそれが謙信の策だとしましょう。わられの虚をつき掛からん(攻撃しよう)とするならば、われらは打ち弛まず(油断せず)、しかと臨めばよいのです」

 それに、と道雪は続ける。

「我らがいて一隊を進ませたとして、それこそ謙信の思うつぼ。策にはまりては、いたずらに兵を死なせる事になりますぞ」

「……」

 

「然りとて道雪殿、まさに安芸守殿(神保氏張)の言われる通り、何もせねば事が始まりませぬ」

 紹運が尋ねる。

「心得ておる。然れど此度こたびは初めての敵ゆえ、まずは謙信の出方を見るのが先である。謙信は一向宗を討ち滅ぼすのが当て(目的)なれど、井波城には加賀の一揆勢二万が後詰めにきておると聞く」

「はい、杉浦玄任殿が大将と聞き及んでおります」

「うむ、われらは四万五千に修理大夫殿(畠山義慶)の三千に右衛門尉殿(菊池武勝)、安芸守殿(神保氏張)の二千をあわせて五万、北と西から七万となれば、謙信も動けまい。ましてやわれらは飛騨と信濃にも兵を出しておる。あわせれば十万じゃ。それに増山城を抜くには庄川を渡らねばならぬゆえ、いずこを渡るかも考えねばならぬ」

「それは安芸守殿や右衛門尉殿に聞かれてはいかがでしょうか? 全軍が着到するまでにいずこより川を渡るか決めておきましょう」

「うむ、そういたそう」

 庄川を渡って謙信と対決し、増山城を攻めるには渡河をしなければならない。

 一番南が庄村、そして一番近い中田村、北へいき大門新村、さらに北へ向かって吉久新村である。この四つの内のどこかを渡らなければならなかった。

 

 ■井波城

「これはこれは、後詰め、かたじけなく存じます」

「なんの、同じ宗門故、遠慮は無用にござる」

 越中一向宗の盟主の一人である瑞泉寺証心は杉浦玄任に感謝の言葉を述べた。

「それよりも、謙信の様子はいかがか? すでに増山の城に着到しておるのですか?」

「はい、門徒の報せによると、本隊も着到し、あとは荷駄を始め全軍の着到をまつばかりかと存じます」

 一向宗門徒は多岐にわたり、農民から町人、国人衆にまで及んだ。

 さまざまな人間が門徒であるがゆえに、特殊な諜報活動を除いては、情報伝達は門徒が担っていたのだ。

「あわせて、これは一月に話があった故の事かと存じますが、権中納言様の勢が、この越中に入りけりにございます」

「なんと! して、数はいかほどに?」

 一向宗への援軍という名目ではなくとも、共通の敵に対するのである。要するに援軍と同じだ。

「は、九州ならびに四国と摂津の勢にて四万五千、それに能登の修理大夫殿、加えて越中の国人が寝返って、総勢五万ほどかと思います」

「おおお! それではわれらの勢とあわせれば七万ではないか! 勝てる、勝てるぞ、謙信に! これ、急ぎお礼の言葉を伝えるのじゃ」

 玄任は急いで近習を呼び、書状を書いて守山城の道雪に送った。

 

 ■越後沖 第四艦隊 旗艦 霧島丸

「長官、失礼いたします!」

「なんだ、入れ」

「は!」

「先頭艦、神通より、通信が入りましてございます!」

「読め」

「は!」

 

 発 神通 宛 霧島

 メ 我 艦影 発見せり 数 複数 水平線にて 艦種 不明 メ

 

 ■第三師団、陸路にて北信濃の平倉城へ 4/5着予定。
 ■第二師団、吉城郡塩屋城下。
 ■杉浦玄任、井波城着。
 ■大名軍、守山城にて着到待ち、軍議中。
 ■城生城別働隊、喜右衛門。 行軍中24km(54.5km)
 ■謙信、増山城で待機中。
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