第66話 激突!佐世保湾海戦②

 平戸松浦水軍 旗艦 艦上 松浦隆信

「申し上げます! 南東の方角、南蛮船がこちらに向かっています。その数三!」

「南蛮船だと?」

 わしは遠眼鏡を出して覗き込む。たしかに南蛮の船だ。なんの用だ? この湾の港で貿易しているところなどないぞ。

 ん? なにやら白地に赤で陽の光のような柄、それからあれは……。

 沢森の家紋ではないか! なぜだ! なぜ南蛮船が沢森の家紋を掲げている!

 水軍でも旗印は掲げるが、あのような掲げ方はしない。南蛮の船は自国の旗を帆柱に掲げて、その国の物である事を示すが……。

 この事実が示す事はひとつ。沢森の小倅が南蛮船をつくり、所有している、という事だ。

 ……まあよい。たかが三隻こちらは八隻。それに、こちらにも砲がある事を教えてやろう。

 

「距離ヒトマル(十町・1,090メートル) 敵艦動かず」

「敵艦動かず横陣、単縦陣にて旗艦を中央に据えております」

 沢森水軍旗艦の見張員と測距員から報告があがっている。望遠鏡を応用して製作した測距儀を利用して、敵艦との距離がリアルタイムでわかるのだ。

 陣形は単縦陣、まっすぐ三隻の沢森艦隊が松浦水軍へ突っ込んでいく。

「距離ハチテンゴー(八町半・926.5メートル)」

「敵そのまま動かず」

「艦首砲用意、撃てー!」

 勝行は距離を測っているのだろうか? 相手を油断させるためだろうか? どちらにしても半分も届かない。

 敵である松浦水軍に向けた砲撃は、むなしく海面に吸い込まれていくだけである。そもそも艦首砲や艦尾砲は、接近してくる敵を迎撃するための旋回砲で、射程も短い。

 

「がははは、なんだあの豆鉄砲みたいなのは。あんな物が当たったとしても沈みはせぬわ! こちらの(フランキ/ハラカン)砲は最低でも三町(百八十間=327m)は飛ぶ。風がよければ四町はとぶであろう」

 隆信の言葉通り、松浦水軍はどっしりと構えて動かず、沢森海軍の三隻が近づくのを今か今かと待ち構えている。

 

 沢森海軍は追い風を受けてぐんぐんスピードを上げている。7ノット(12~3キロ/時)は出ている。

 沢森軍の戦闘準備はできていた。

「右砲戦用意!」

「ハチテンマル(八町・872m)、ナナテンゴー(七町半・817.5m)、ナナテンマル……」
(一町=約109m)

 松浦水軍からの砲撃がすごい。前方に水しぶきが次々にあがる。しかし、距離が足りないのか、当たらない。その飛沫めがけて進む。

 旗艦のマストの信号員は「我ニ続ケ」と後続艦に信号を送る。

「ロクテンゴー(六町半) ロクテンマル(六町)」

「取ーり舵あーじ! 取舵一杯! 戻ーせー。舵中央!」

 艦長と羅針盤を見ている航海長とのやり取りに、操舵員が復唱して舵を操る。

 この三隻の艦には、南蛮船のモノマネだけでなく、操舵輪から舵へ伝達できる新型の舵が備え付けられている。

「目標敵旗艦! 赤地に三ツ星の旗! 右砲戦用意、てえ!」

 三隻の艦砲が松浦水軍の旗艦に向けて発射された。

 ひゅううううん、どがん、がしゃん。ひゅううううん、どすん、どがん。次々に命中する。

 

「うわああ!」

 衝撃に耐えられず、隆信はよろけ、飛ばされるように右の壁にぶち当たった。

「ぎゃあ! !」

 なぜだ、なぜこちらの弾は当たらず奴らの弾は当たるのだ?

 

 折からの追い風、正確な測距のおかげであろう。

 若干大砲の性能が沢森側に分があったとしても、まさに、アウトレンジ戦法。右舷側を相手に向けて、一斉に砲撃したのである。

 ……あれ? (天の声)これどっかで聞いた事あるな? 「T字型戦法」? 「31ノットバーク」?

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