第67話 佐志方杢兵衛、造反す。 

 ■龍岩城 佐志方杢兵衛

「殿! ご覧ください!」

 眼下には南風崎から上陸した松浦軍が、ウンカの如く小佐々砦を攻めているのがはっきり見える。

「殿! ここに至ってはお家の為に造反も止むなし! 我らも共に小佐々を攻めましょう!」

 筆頭家老が進言する。

「何を申すか! そのような事をすれば末代まで恥を残す! 佐志方杢兵衛は裏切り者よ、裏切りの血よ! と、そのようなそしりを受けたいのか?!」

 別の家老が反論をする。

「ではどうするのだ! このまま座して負けるのを待つのか? 中立を保ったとして、おそらく平戸は我らを許さぬぞ。針尾の地を我が物にせんと、直接支配に乗り込んでくる。そうなった時はどうするのだ。誰も味方はおらぬぞ!」

「損得だけが戦ではない! 数で劣っていようとも、負けるとは限らん!」

「何を根拠のない悠長な事を……」

 家臣二人がお互いの考えをぶつけ合っている。そしてわしは、決めかねている。

 ……。

 小佐々砦が陥落した。

「殿、ここで何もしなければ、どちらからも味方とは思われませぬぞ!」

「何を言うか! そもそも沢森と盟を結んだのであって、小佐々ではない。それにその盟自体も針尾への牽制であり、針尾や松浦を攻撃する事ではない」

 このままでは埒が明かない。

 わしは決心した。

「よし、小佐々を攻めるぞ! ただし、積極的に攻めるのではなく、攻めるふりをするだけじゃ」

 もちろん、こちらが攻撃されれば致し方ないが。やつらはそうせぬよ。わかっておるはずじゃ。うまく誤魔化せよ。

「殿、それでは……」

「わかっておる。わしだってこのような姑息な手は使いとうない。しかし今はこれしかないのだ。選択肢は最後まで残しておいたほうがいい」

 わしは城群の全ての兵に招集をかけ、集まり次第小佐々兵を攻撃するよう命をくだした。

 

 ■針尾城 針尾伊賀守

「よし! 杢兵衛が寝返ったか! 小佐々兵を攻撃しておるのだな?!」

「は! 間違いございません! 龍岩城に全軍を集結させ、小佐々砦を通過しながら、宮尾城を包囲している大村軍まで攻撃をかける模様!」

「時来たれり! 横瀬浦を奪うぞ! 南蛮の権益を全て奪うのだ!」

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