第708話 『琉球州誕生か』

 天正十二年四月二十六日(1583/6/16) 諫早城

 前回の会議で決まった新政府の歳入を調べ上げた。補助金を支払った残りの純粋な歳入だ。

 小佐々州……553,346貫
 織田州……219,912貫
 武田州……76,758貫
 北条州……74,354貫
 徳川州……37,602貫
 浅井州……33,130貫
 里見州……23,436貫
 畠山州……12,391貫
 大宝寺州……6,456貫
 新政府直轄領……84,938貫

 塩田の収入……100,000貫

 総合計……1,222,323貫

 とりあえず、一応形にはなった。

 国家予算であるがために、軍備や外交等の用途が望ましかったが、当面は外交・軍事は肥前国(小佐々)の陸海軍が担当しなければ立ちゆかない状態である。

 この予算も更なる収益を見込むために産業の育成と教育・インフラ整備等に充てられる事となった




 ■諫早城広間

「さてみんな、聞いて欲しい。先日琉球から書状が届き、外務省の副大臣である長嶺親方将星ながみねうぇーかたしょうせいが来るとの事だ」

「その当て所(目的)は冊封、わが国に服属を願い出て、独立国としての保証を得んがためとの事」

 純正の発議のあと、直茂が補足した。

「今琉球は、明に服属して冊封を受けている。然れどその冊封も有名無実化しており、なんら琉球にとって利のあるものではなく、かえって国益を損ねているとの事だ。これについて皆の考えを聞きたい」

 純正は全員を見渡して言ったが、既に答えを決めているかのようであった。

「すでに琉球とは軍事同盟に近い約を結んでおりますれば、我らのかう張り(庇護ひご)の下にあることを内外に明言し、かつ台湾もしくは呂宋の艦隊を駐屯させれば、明の動きを封ずる事にもなりましょう。また明は、永楽帝の御代にはるかアフリカまで船団を遣ったそうですが、それも今は昔。海軍は衰え、いかな大国でも海を渡って琉球を攻めるなど難しいでしょう」

 直茂は情報省から得た情報を分析して意見を述べた。官兵衛は立ち上がって、壁に掛けられた大きな地図に歩み寄る。

「琉球を我らの影響の及ぶ下に置くことで、より交易の幅が広まるでしょう。関銭はなくなり、自由に商人が行き交う事で、お互いに利を得る事となるかと存じます。南方への交易船団や艦隊の航行もより易しとなるでしょう。明に関しては、琉球が冊封を止めたことに対して、何らかの動きはあるかもしれませんが、いきなり武を以て琉球を征伐するようなことはないかと存じます」

「官兵衛殿、然りとて明国との戦は避けなければなりませぬ。如何いかなる拠り所にて、戦にならぬと言い切るのですか」

 直家は自分の考えとすり合わせるかのように官兵衛に確認をしたが、官兵衛はその問いに対して冷静な表情で答える。

「宇喜多殿のご指摘、誠にごもっとも。明との戦はないと言い閉ぢむ(断言する)訳ではありませぬが、彼の国がすぐさま武をもって、琉球に攻め入る恐れはないと考えまする」

 官兵衛は地図上の明国を指さしながら続ける。

「現在の明は、北方の女真族や蒙古との国境問題に追われています。さらに海禁政策により彼らの海軍力は著しく衰えており、琉球のような遠き地に大がかりな兵を起こす余力はないかと存じます」

 直家は腕を組み、深く考え込んだ様子で官兵衛に返す。

「うべなるかな(なるほど)。明との戦は避けるべきと考えておりましたが、実はそれがしの考えも官兵衛どのと同じにござる。明にとって琉球を攻めたところで、何の利もありませぬ。あるとすれば、冊封を止めればこうなるぞ、という見せしめくらいのものでしょう。然りとてそれが戦を起こすほどの故にはなりますまい」

 純正は直家と官兵衛のやり取りを静かに聞いていたが、やがてゆっくりと息を吸い、口を開く。

「両名の考え、よく分かった。確かに明との戦の恐れはなさそうであるな。然れど油断は禁物である。琉球の冊封を受け入れることは、単なる形式以上の意味を持つ。これは東アジアの力の釣り合いを崩す一手となるやもしれぬ」

 ふと、土居清良が発言を求めた。

「御屋形様、琉球を従わせる事で、台湾や呂宋の艦隊との携わりがより強まります。琉球は我が国の海上の備えの重き結び目となり、東支那海における我が国の海上交易路をより安全に保つことができるでしょう」

 さらに続いて佐志方庄兵衛が続けて意見を述べる。

「加えて、琉球に我が国の進んだ造船技術や航海術を伝授することで、彼の国の海上の備えを強め、さらに両国の絆をより深めること能います。これは我が国の海洋戦略の大方(全体)を強める事となるでしょう」

「皆の考え、よく分かった。では、以下の方針で進めることとする」

 純正は全員の意見をしっかり聞いて吟味し、その後決意を込めて言った。内容は以下の通りである。




 一つ、琉球との冊封関係を確立し、我が国の影響下に置く。ただし、彼らの文化や伝統は最大限尊重する。

 一つ、明との直接対立は避けつつ、琉球の独立性と我が国との関係強化の正当性を主張する。必要であれば、外交的な説明も行う。

 一つ、琉球を我が国の海洋戦略の要として位置づけ、既存の防衛網との連携を強化する。同時に、我が国の技術を伝授し、琉球国の海事能力の向上を図る。




 琉球国は小佐々家の海外領土とし、州ではなく(将来的には州)高山国(台湾)や呂宋国(フィリピン)と同じようにした。これはあくまでも帰属を願ってきたのが大日本国ではなく、小佐々家の肥前国であったからに他ならない。




 次回 第709話 (仮)『瓶詰めの開発』

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