第711話 『最上の馬揃えと商人の動き』

 天正十二年九月十八日(1583/11/2) 新政府庁舎

 武田州……清水湊8万貫
 徳川州……大浜湊10万貫
 浅井州……小浜湊7万貫
 里見州……館山湊9万貫
 畠山州……七尾湊8万貫
 大宝寺州……酒井湊6万貫

 各州から港湾整備の予算申請が出たが、当然給付金で足りる金額ではない。小佐々からの捻出分を割り当てて整備する事となった。織田の予算を引いて残った予算(地方交付金)は22万貫である。




 ■大宝寺家宿舎

「申し上げます! 最上義光、馬揃えを行いてございます!」

「なに?」

 大宝寺義氏は新政府への加入により北の安東(小佐々服属大名)とは和睦状態となっていた。南の上杉とは純正が上杉と戦った際に大川城を攻め落とし、その一帯を領有するに至っていたのだ。

 最上義光とは長年対立していたが、国境を接する事が無く、国人が治める村上郡を緩衝地帯としていた。

「村上郡の国人衆はことごとく降り、義光の武威いや増すばかり。このままでは我が領と境を接しまする」

「うむ。よもや我が領に攻め入ってくるとは思えぬが、由々しき事の様であるな。急ぎ新政府の議題にあげるとしよう。その方は国許に、兵を整え、案に違う事のないよう伝えるのだ」

「はは」




 ■新政府庁舎

「さて、出羽守殿(大宝寺義氏)からの申し出によると、隣の最上義光が馬揃えを行い、周りの国人に暗に降るよう圧しておるとの由。相違ございませぬか、出羽守殿」

「相違ございませぬ」

 大宝寺義氏と純正は上杉戦以来昵懇じっこんとなっており、領内の商人とも良好な関係を築いてきた。

「では方々、この儀につき、言問致したく存ずる。政府として如何いかなる行いをすべきであろうか」

 純正は関白として、議長として発議した。

「左様なことならば、まず出羽守殿には案に違う(予想外の)事が起きた時のために備えていただき、政府としては最上義光が如何なる意図で馬揃えを行ったのかを質すべきにございましょう」

 勝頼が言った。

「ただ周りを圧するための行いか、それとも別の策を考えているのか。見定めねばならぬでしょう」

 普通に考えて、新政府に敵対するのは自殺行為である。

 越後の上杉は小佐々に敗れ、新政府はその小佐々が主導しているのである。また、東国の勇であった北条も所領を半減され、往時の勢いはなく新政府に加盟しているのだ。

「そうですな。それがしもれが良いかと存じます。加えて出羽守(義氏)殿、最上は恐らく貴殿の所領へ討ち入る事はないであろう。ここに至っては自らの所領を増やそうとしても戦はできぬ。そのため威をもって圧し村上郡の国人を降そうと考えて居るのでしょう。ならばこちらも村上郡の国人にも新政府の意向を伝え、最上に従わぬよういたすのが良いかと存ずる」

 純正はそう言って全員を見回すが、反対意見はでなかった。




 ■博多

「さて皆さん、集まってもらったのは他でもない。これからの事です」

 大賀宗九(23)、神屋宗湛(33)、島井宗室(44)、平戸道喜(38)、仲屋宗悦(34)、太田和屋弥次郎(36)の六名が集まって協議をしている。議長は年長の宗室である。

 純正を初めから助けてきた道喜は隠居をして、二代目道喜となっている。14年前には新参者であった仲屋乾通も今はなく、息子の宗悦がついで勢力を伸ばした。

 太田和屋は初代道喜よりも先に沢森時代の純正を助けてきたが、いかんせん規模が小さく、弥市が財務大臣になってから跡を継いだ弟の弥次郎が、苦労して店を大きくしてきた。

 北加伊道交易で財をなし、平戸道喜に並ぶくらいになっていたのだ。

 六人はそれぞれが得意とする商品を扱ってはいたが、肥前国の南方ならびに北方進出、技術革新によって従来の南蛮貿易の枠を越え、様々な商品を扱うような総合商社的な存在となっていた。

「塩を、如何いかが思いますか? 魚油に干鰯ほしかは如何でしょうか? これまで小佐々領内で作られた物を幾内で売れば、かなりの儲けとなりました。然れど今、新政府に加わっている国々で、同じように塩が作られております。魚油も干鰯も同じで、これまでと同じような値では売れなくなりました。幾内での商いが、やりにくくなっております。これからさらに様々な品で、同じような事となりましょう」

 宗室が厳しい表情で話を続ける。

「この現の事の様を鑑みて、我らは新しき策を考えねばならぬかと存じます。初心に立ち返り、自らが強みとする国での商いを強め、そして新たな市場を切り拓く事が肝要でしょう」

「然様。例えば南方での商いはまだまだ見込みが大きい。特に高山国や呂宋国など、我らが未だ手をつけていない金山や、様々な幸や品が多くあります。これらの国に進んで機会を求めていくのがよいのではないでしょうか」

 宗室の言葉に宗九が続いた。

「それはつまり、畿内での商いに見切りをつけると?」

 弥次郎が確認するかのように全員を見渡す。

「そうではありません。太田和屋さん、あなたは北加伊道の商いを主にやっているから、あまり障りはないのでしょうが、商人が利を求めて何が悪いのですか。安く買って高く売る。それが商いのイロハにございましょう」

 確かに、弥次郎の商売は北海道で買い付けたアイヌの産物と、鰊粕にしんかすや魚油など北海道に関わる全ての産物を扱っている。小佐々領内では小売りも行い、新政府の他の州では問屋のような独占的な立ち位置である。

 競争相手がおらず、供給源が弥次郎しかいないので、変更する必要がないのだ。その代わりに法外な値段では販売しないようにと、純正からはきつく言われている。

 ただ、明らかに小佐々州内の領民の方が購買力があり、豊かであった。

「いや、私も他意はございませぬ」

 弥次郎の言葉に宗室は一同を見渡し、さらに話を続ける。
 
 経済格差を埋めるべく政治的に殖産興業を行った事で競争が激しくなり、これからもそれが続く事を見越して、新たな市場を探そうというのだ。

「我らは先をあらかじめ考え、大方(全体)としての進む道を考えねばなりません。特に新政府の他州でも塩や魚油、干鰯のように、他の品全てにおいて競い合いが激しくなる事でしょう。そのため、新たな品や国に目を向けねばなりません」




 六人全員が互いにうなずき合い、新たな計画を練り始めた。

 内需が大きくなっている小佐々州内と、新たな消費が見込める海外領土への本格的な商業資本の投下が始まるのであった。




 次回 第712話 (仮)『大日本国銀行』

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