俺の中で二人の処遇はもうすでに決まっていた。
隆信は切腹で、鎮信は出家。そしてどこかに幽閉する。
そしてこれは、かなり母上に泣きつかれて、情にほだされそうになったが、心を鬼にしてお願いした。
千寿丸を養子に出す。完全に平戸松浦を支配下におく。
考えに考えた結果だ。
なるべく目立たずに、平戸を弱体化させるにはどうしたらいいか?
単純に割譲させるだけでは、二人が生きていれば絶対に反撃してくる。反撃できないぐらい割譲させても、広すぎて今度は治める事ができない。
切腹させずに隆信出家で隠居、鎮信が家督相続でも攻めてくる。あの気性じゃ間違いない。それに隆信は権力握ったままだろう。
だから、二人はこの世から(表舞台から)消えてもらわなきゃならない。攻めてくるのわかっているのに放置なんてできんしね。
「忠右衛門、利三郎、説明終わった?」
「は、終わりましてございます。皆様得心(納得)いただき、あとはお見せするだけにございます」
「わかった」
ここは、沢村艦隊旗艦、コメーソ・ダ・ゴーリャ号の艦上である。
試験航海がまだで、今回が処女航海になる三隻が就役している。合計六隻で臨んだ。
まずここに呼んだ全員が、なぜ南蛮船に日ノ本の人間が乗っているのか? 理解できなかっただろうね。そして動かしている。それだけで十分にプレゼンスになるんだけど、決め手に欠ける。
平戸は完膚なきまでに屈服させないとね。
北松浦の南部の人は佐々浦から乗艦してもらい、北部の人は田平村の日の浦から乗艦してもらった。松浦党の波多、伊万里、有田、志佐氏の四氏は日の浦からだ。
そして平戸の家臣には、先触れを出して集まらせた。
筆頭家老の籠手田安経、家老の大島輝家・大島澄月兄弟、大野定屋、西常陸信清、加藤源之助らである。
その中にひときわ異彩を放つ男がいた。
「ひょっとして、あなたが籠手田安経殿ですか?」
「それがしをご存じなのですか? 一見かと存じますが」
俺はとん、とん、と指で自分の胸を叩いてみせた。相手の首に十字架がかかっている。一部勘解由もそうだったから、もう一人のキリシタンだと踏んだのだ。
「いかにも。某が平戸松浦家家老、籠手田安経にござる」
「沢森平九郎にござる。以後よしなに」
これからここで何を行うかというと、今で言うところの条約調印式だ。今回の戦の戦後処理の仕上げになる。
「各々方、まず始めに言っておきたいのは、平戸松浦とわが沢森とは、今まさに軍(戦争)の最中であると言う事です」
「何を申すのだ? 我らは沢森などと戦はしておらぬぞ!」
(などと、だと? 結局そんなもんだな、俺たちの今の評価は)
「何を言われる。先日早岐の瀬戸で、我らが寄り親の小佐々の軍兵と打ち合うた(戦った)であろうが。宮村に陣取っていた我らの同盟相手、大村様を狙った事は明白である。我らと戦をしているのと同じではないか! 海の上では踏み潰してやったがな」
「ぐ!」
加藤源之助が口をつぐむ。
「隆信と鎮信からは、貴様の好きにせよ、早く殺せ! と言われておる。だが、まだ殺してはいない」
俺は全員を見渡して、告げる。
「で、どうなのだ? まだ軍(戦争)は続いていて、力で二人を取り戻すというのか? どうなのだ?」
「いったい何を言っている? 終わりも何も、今軍(戦争)はしておらぬではないか!」
「答えになっていないな。話が噛み合わぬ。よしわかった」
俺は勝行に指示をだす。勝行は信号員に
「旗艦ニ続キ 砲撃ヲ開始 目標 左 勝尾嶽城」
と送らせた。
「目標左、勝尾獄城! 砲戦用意! てえ!」
どおん! どおん! どおん! どおん!
六隻の左舷の艦砲が火を吹き、城、その周辺に命中した。
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