親父と一緒に小佐々城にいった。馬で一刻(2時間)もかからない。
小佐々城は城の辻と呼ばれる小高い山の上に築かれている。
城の本丸からはゲキト岳を源流として梨の木から北の七ツ釜港に流れこむ多比良川と、それに沿って瀬戸村までつながる道を望む。
周囲には北に田平下館、南に小峰上館があって一門や譜代家臣の家族などが住んでいる。南側には石積の段曲輪、北の山腹には「扇陣」と呼ばれる石垣があった。
典型的な山城だが、改めてじっくり見る事はこれまでなかったのだ。
「かような事に相成り、誠に申し訳ございません。それがしの不徳のいたすところにございます。真っ先にお伺いせねばならぬところ、仕置に手間どり、かような時期になり申した。重ねがさね申し訳ございません」
「よい。よく来てくれたの。嬉しく思うぞ」
俺は自分の目を疑った。
本当に同じ人間なのか。頬はやつれ痩せこけて、クマができた顔には全く生気がない。髪はほぼ白髪で埋め尽くされており、声もかすれている。
おととし初めて会った時は、五十を過ぎていた。
それでも精悍で活力にあふれ、見方によっては四十前と言っても過言ではなかった。それが今、見る影もない。まるで黄泉路に向かう老人だ。
右側に座っている常陸介叔父上もひどい。
まだ三十だというのに、焦燥しきった四十過ぎの、ただのオジサンだ。
凛々しく、雄々しく、弓の名手で俺の命を助けてくれた、あの叔父さんはどこにいったんだ。
「ごほっ、実はの、平九郎。こたび呼んだのは、お主に頼みがあっての事なのじゃ」
「はい、なんでしょうか」
「小佐々を……ついでくれぬか」
! ! !
俺は驚いたが、実は、なんというか、そこまで驚かなかった。不思議な感覚だ。
葛の峠の戦いで義父上と義理の叔父上二人をなくした時、なんとなく、なんとなくではあるが、こんな日がくるのではないか? と感覚的に予感していた。
だからまず、親父の顔を確認した。うんうん、とうなずくそぶりを見せている。
「……。かしこまりました。しかし、この件、常陸介様をはじめ、御一門や譜代の方々は得心(納得)なさっておいでなのでしょうか」
俺は常陸介叔父上を見た。叔父上はただ、うなずいている。
「小佐々を……頼むぞ平九郎」
「はは。神明に誓って。全身全霊をもって励みまする!」
深々と平伏した。
その五日後、三代目弾正忠、小佐々純勝は永眠した。享年五十五。
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