第91話 後藤惟明の苦渋の決断

 永禄七年 六月 武雄城 後藤惟明

 父上が殺され、兄上も弟も幽閉されている。今の武雄後藤に、俺の居場所はない。養子の意味がないのだ。

 ただでさえ疎んじられてきた。実子も問題なく成長している。このままではいずれ廃されるか、もしくは……。

 どう考えても暗い未来しかない。

 幸いにして家臣のすべてが義父上側ではない。時期がくれば、我らが優勢に事が運べる時がくるやもしれぬ。ただし、義父を倒したとして、その後、どうする?

 平戸には以前の力はない。兄上が復帰するにしても、小佐々家がそれを許さぬだろう。ではどうするか? 龍造寺と組むか? 

 果たして、今まで戦ってきたのに、和睦は別として、盟を結んでこの先信頼関係を築いてやっていけるだろうか?

 龍造寺と結べば大村・有馬との戦いの尖兵せんぺいにされるのは間違いない。

 だとして、われらに利はあるか? 得られる領地はあるか? そして龍造寺隆信が信ずるに足る人物なのか。俺は隆信に会った事がないから。わかりようもない。

 しかし謀略と裏切りを繰り返すのが戦国の世だとはいえ、どうにも信じられぬ。

 有馬・大村はどうだ? こちらも似たりよったりだ。
 
 いや、俺が家督をつげば、義父との過去は流して、盟を結べるだろうか。だとしても、今は勢いが衰えている。

 もしまた龍造寺と戦って負けるような事があれば、杵島郡からはその勢力が一掃される。藤津郡も危うい。

 勢いでは龍造寺が上だ。甲乙つけがたい。あとは、波多や伊万里は言うに及ばず。波多は跡目争いで地盤がゆるいし、伊万里は当主が代わったばかりで14と若い。

 では残るのは……小佐々、か。

 成長著しいな。俺よりも四つ下か。しかし年齢は関係ない。伊万里純と比較しては悪いが、どうみても小佐々の方が器は上だ。

 南蛮貿易と商いで財をなし、それで兵を雇っていると聞く。やつに野心はあるのだろうか? 大村がキリシタンになっているのに小佐々はなっていない。

 南蛮貿易はキリシタンと対ではなかったのか?

 いずれにしても、一度会ってみたいものだ。会ってみればどのような男なのかわかる。さて……。どうするか。

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