永禄七年 十一月 高城 西郷純堯
(今しかない。仏敵大村純忠を討つのは、今しかない)
高城城主の西郷純堯は思った。妻は有馬義貞の姉で、妹は大村純忠の妻である。親類縁者でも容赦なく敵になる、それが戦国時代だ。
キリシタンの教えにかまけ、自らもキリシタンになり、日ノ本に古くからある御仏の教えをないがしろにするとは何事か。貿易で得た利益で私腹を肥やし、領民には改宗を強制している。こんな事が許されるのか?
否!
許されるはずがない。いまこそ大村を討ち、世に我らの正義をかざすのだ。
純堯は大村氏の居城になったばかりの三城城をせめ、弟の深堀純賢は長崎の長崎純景を攻撃した。
■三城城
大村純辰の他、侍大将六名を含めて籠城するのはわずか三百名ほどであった。幸いに城の兵糧には余裕がある。純忠の援軍がくるまで持ちこたえれば、城を守り通す事はできる。
三城城は小高い丘の上にある。しかし、純然たる山城ではない。本丸の東には空堀があり、北東には土塁と二の曲輪がある。極めて簡素なつくりで、大軍で一気に攻められると守るのは難しい。
対する西郷側は千五百。五倍である。勝敗は明らかに見えた。
■鶴城(長崎城)
(長崎をイエズス会に寄進するだと? 岳父様は何を考えているのだ?)
大村純忠の娘を正室として娶り、岳父として尊敬していた長崎純景は悩んでいた。
(確かにキリストの教えは素晴らしい。しかし、それはわが領地を差しだすほどの事なのか?)
大村純忠がキリシタンになられてこのかた、西郷、深堀の嫌がらせがひどい。
特に俵石城の深堀純賢はひどい。水軍をもって長崎港を封鎖し、入港する船から帆別銭をとり、従わぬ船を襲っているのだ。しかし、大村純忠は何もしない。いや、できないのだろうか?
「申し上げます! 俵石城の深堀純賢、水軍をもって長崎港を襲っております」
「それは誠か!」
(やはり恐れていた事が、起こるべくして起きてしまったな)
さて、どうするか。抵抗したところで死人がでるばかり。多勢に無勢。どうせ寄進しなくてはならないなら、いっその事……。
純景は決断を迫られた。
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