第94話 西郷 純堯 深堀純賢 動く

 永禄七年 十一月 高城 西郷純堯

(今しかない。仏敵大村純忠を討つのは、今しかない)

 高城城主の西郷純堯は思った。妻は有馬義貞の姉で、妹は大村純忠の妻である。親類縁者でも容赦なく敵になる、それが戦国時代だ。

 キリシタンの教えにかまけ、自らもキリシタンになり、日ノ本に古くからある御仏の教えをないがしろにするとは何事か。貿易で得た利益で私腹を肥やし、領民には改宗を強制している。こんな事が許されるのか?

 否!

 許されるはずがない。いまこそ大村を討ち、世に我らの正義をかざすのだ。

 純堯は大村氏の居城になったばかりの三城城をせめ、弟の深堀純賢は長崎の長崎純景を攻撃した。

 ■三城城 

 大村純辰の他、侍大将六名を含めて籠城するのはわずか三百名ほどであった。幸いに城の兵糧には余裕がある。純忠の援軍がくるまで持ちこたえれば、城を守り通す事はできる。

 三城城は小高い丘の上にある。しかし、純然たる山城ではない。本丸の東には空堀があり、北東には土塁と二の曲輪がある。極めて簡素なつくりで、大軍で一気に攻められると守るのは難しい。

 対する西郷側は千五百。五倍である。勝敗は明らかに見えた。

 ■鶴城(長崎城) 

(長崎をイエズス会に寄進するだと? 岳父様は何を考えているのだ?)

 大村純忠の娘を正室としてめとり、岳父として尊敬していた長崎純景は悩んでいた。

(確かにキリストの教えは素晴らしい。しかし、それはわが領地を差しだすほどの事なのか?)

 大村純忠がキリシタンになられてこのかた、西郷、深堀の嫌がらせがひどい。

 特に俵石城の深堀純賢はひどい。水軍をもって長崎港を封鎖し、入港する船から帆別銭をとり、従わぬ船を襲っているのだ。しかし、大村純忠は何もしない。いや、できないのだろうか?

「申し上げます! 俵石城の深堀純賢、水軍をもって長崎港を襲っております」

「それは誠か!」

(やはり恐れていた事が、起こるべくして起きてしまったな)

 さて、どうするか。抵抗したところで死人がでるばかり。多勢に無勢。どうせ寄進しなくてはならないなら、いっその事……。

 純景は決断を迫られた。

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