十一月 小佐々城 小佐々弾正大弼純正
「さて、どうする?」
俺は深沢義太夫、深作治郎兵衛、藤原千方、沢森利三郎の四人と、特別参謀として佐志方杢兵衛を加えた五人で、戦略会議を行っていた。
「外務大臣、どうだ、外交状況が悪いところはあるか?」
「は、されば西は今のところ問題ありません。五島の宇久とは、椿油の輸入ならびに捕鯨における協力態勢も確立されておりますれば、|諍《いさか》いも起こっておりません」
まあそうだよな。宇久とは良好な関係のはずだ。
「また、先日情報省からあった鎮信・九郎の件は、監視付き自由行動にて、先方のあらかたの要望は受け入れております」
「ふむ」
「有馬とは現状維持でございます。大村とは先日の鉱山の件で多少険悪になりつつありありますが、こちらに負い目はございませんので、放置しております」
こっちにやましい事が無いわけでは無いが、ここは突っぱねないと、やられる。
「武雄とは皆様の予想通りで、取り付く島もないのですが、どうやら親子間の溝がかなり開いているようです。嫡男誕生から家督相続問題が起こるかもしれません」
後藤貴明と養子の惟明は対立している。
「深堀とはこれからにございます。伊佐早の西郷と同じく、キリシタンにかなりの憎悪を持っておりますゆえ、ゆくゆくは大村と戦の可能性も出てくるかと存じます。その際には細心の注意が必要かと」
「それは面白いな。仲違いしてくれれば幸いだ」
不謹慎だが、俺は正直そう思った。
「志佐・伊万里に関しては特段ございませんが、領内にてかなり物価の高騰があり、不満が高まっているようです」
「あわせて波多ですが、こちらも武雄の後藤と同様にございます。現在の藤堂丸派と、前当主の弟・波多志摩守派の権力争いが出てまいりました。双方とも収まりがつかないほど、お互いを罵っております」
まったく、どこもかしこも家督争いだ。
「なるほど。みな、ここまで何か質問はあるか?」
「……」
「なんだ外務大臣」
利三郎が無言で何かを訴えている。
「その、外務大臣というのは、なんだか照れますな。前の外交方とか外国奉行の方がしっくりきておりました」
なぜか全員がうんうん、とうなずく様な素振りである。
えー、だってもう決めちゃったし、確かにこの時代にはそぐわないんだけど、諸々俺が言いにくいんだもん。あ、大臣は別ね。
「左様か。まあ、おいおい慣れていってくれ」
俺は無理やり流した。
「海軍大臣と陸軍大臣、なにかあるか?」
「は、海軍は現在三個艦隊にて、大村湾即応部隊として第二艦隊を小佐々砦に、松浦郡・五島方面を第三艦隊、そして七ツ釜に本艦隊を配備しております。各方面にて即時対応可能です」
深沢義太夫勝行は答える。
「陸軍は五個連隊、第一連隊は変わらず小佐々砦に配しており、|彼杵《そのぎ》、武雄方面に事あれば処する事能いまする。第二連隊は平戸において松浦の抑えとし、同時に北松浦方面の守りを担います。第三から第五の三個連隊を旅団直轄として小佐々城下に配して、こちらも直ちに動けます」
と深作治郎兵衛兼続。
「二人共さすがだな、ありがとう」
「いえ、石高増加分にて菜種裏作の益があったため、急ではありましたが、配す事能いましてございます」
二人が同時に言う。
「参謀長はどうだ?」
「ただ今は何も申し上げる事はありません。先程の布陣にて、三方面で時を同じくして動く事も能いましょう」
「少し気になる事が」
情報大臣の千方が口を開いた。
「実はまだ確証はありません。ただ、先日の金山露呈の件、五島の密談の件、志佐・伊万里領内の物価上昇の件、どうやら|空閑《くが》衆が動いている様にございます」
「? 空閑衆? なんだそれは?」
「は、つぶさにはわかっておりませぬが、龍造寺隆信配下の忍びの衆かと」
「龍造寺隆信! ?」
全員が顔を見合わせた。
「なぜ龍造寺が動いておる? 我らとは所領は接しておらぬぞ?」
「面倒になる前に叩いとけ、ということか」
俺はぼそっと言った。
「千方、勝てるか?」
「は、勝てないまでも負けませぬ」
千方にそう言わせるとは相当な者だな。今までは諜報に関しては相手が弱かった。これからは今まで以上に慎重にならねばな。
と、その時であった。
「申し上げます! 西郷純堯、深堀純賢、大村領に攻め入ってございます!」
来たか!
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