四月九日 午四つ時(1230) 小佐々城 小佐々弾正純勝
「申しあげます!」
「何事だ!」
伝令の全身から絞り出すような大声に、息子の純俊といっしょに将棋をしていたわしは我に返る。
「蛎浦、敵襲にございます! お館様より小佐々様へ、至急援軍を乞うとのこと」
伝令に水を渡すように小姓に指示をだす。
「数は? どこの軍勢だ?」
「数は不明です。ただ、おそらくは平戸松浦かと!」
「くそったれ! 平戸の野郎、南蛮貿易だけじゃ飽き足らず、五島灘の権益全部奪いに来やがったな」
腕を組んで、苦虫をつぶす。
「委細承知! すぐに向かうと伝えろ!」
「はっ!」
水をごくりと飲み干すと、伝令は裾で口を拭いながら、御免! と言って走り去った。
「どう思う?」
「は、父上の言われるように、五島航路の権益を奪うのが目的かと」
「うむ」
「平戸から離れている故、城を落とさずとも、港を破壊するだけで我々の邪魔をできまする。さらには蛎浦の再建に我々が手間どれば、平島、江島も危うくなり申す」
「それだけは避けねばならぬな」
「はっ。平島、江島が落ちれば、五島航路どころか我らは北にも南にも進めなくなることは必定」
「深掘の動きはどうか?」
「今のところは目立った動きはありませぬ。また、松島に次郎左衛門を配しておりますれば、南の心配は無用かと」
「あいわかった! 中浦と七ツ釜の衆に触れを出せ! 安宅はいらぬ、関船一隻に小早十隻で二組作れ。七ツ釜の常陸介にも参陣せよと伝えるのだ」
各所に指示を伝えるために部屋を出た純俊を確認して、わしは具足をつけるために小姓を呼ぶ。小姓が準備をしている間に障子をあけ庭に出た。
塀の上から完全に体が出るくらいの見晴らし台がある。
台にのぼって風を読む。
北北東か、この時期は南西が多いが、風向きが変わらねば、ちと時間がかかるかもしれぬな……。
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