永禄四年 四月 沢森城 喜々津御前の居室 沢森政忠
日差しの差し込む中庭に面した部屋のなかで、姉である喜々津御前と息子の幸若丸、そして妹の雪姫が、3人で遊んでいた。
「義姉上、今少しよろしいでしょうか?」
俺は深呼吸して声をかける。
「いいですよ。どうぞ」
との返事を確認して、近くに控えている小姓が障子を開ける。小平太との予行演習は終わっていた。
中に入ると、20歳前後の女性に10歳前後の女の子(だからお前も子供だってば)がいた。それに小さな男の子が笑いながらじゃれあっている。
「久しいですね、平九郎殿。そうは言っても怪我をしてからですから、十日ぶりくらいでしょうか」
ものすごい美人。
というか姉さんなんだから、確か兄貴が生きていれば18だから、ひとつ下で17歳! ? JKやん!
まったく女子高生には興味がないけど、もし学生の時に出会っていたら、突撃して撃沈してたな。うん。それくらい美人。
でも17歳には見えない。数えだから、誕生日前だったら16? いやあ恐るべし戦国女子。
「こちらこそ、ご挨拶もできず申し訳ありません。怪我の影響なのか、己の認識と実際の事柄が違う事がありまして、確認している最中にございます」
もう、面倒くさい。軽い記憶喪失って事で周りを納得させて、既成事実をつくっていこう。
考えるのに疲れた。
まあ、頭を打って意識障害とか、なんらかの副作用? が出るのは医学的にもあり得ることだから、一番納得させやすい理由といえば理由なんだよね。
「兄上、私もでしょう?」
横にいる10歳くらいの女の子が頬をふくらませて顔を向ける。妹の雪姫だ。
うん、お転婆の匂いがぷんぷん。
そういえば、前世の妹もどっちかって言うとこっち系だったなあ。弟の千寿丸は現世が明朗快活で前世とは逆系統だったが。
「ごめんごめん、久しぶりだね。雪」
と、とってつけたように返事をする。
「ふん、だ。あれ……兄上なんか……。ほんとに兄上?」
げ、何を言い出すんだこいつは。せっかく記憶喪失路線でいこうと決めたのに。兄弟そろってなんて勘がいいんだ!
「雪、平九郎殿は傷がふさがったばっかりなんだから、そんな事言ってはダメですよ」
とたしなめるように言う義姉。
「だってぇ……」
と、まだなにか言いたげだが、諦めて口を閉じた。よしよし、それでいい。すると……。
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