第34話 硝石としいたけは長ーい目でみよう。

 一度、初心に返ってどんな産業が可能で儲かるか、できるだけ考えてみよう。まずはそれからだ。

 ■山(農業)
 ・菜の花(菜種油と食用、ビタミンC……南蛮船に売る壊血病予防)
 
 ・小麦から小麦粉でパンを作る。……食用とパンくずを消しゴムに。
 
 ・野いちごと山ぶどうからイースト菌(鍾乳洞を使った氷室)。あるじゃん近くに!

 ・みかんジャム(みかんはそのままビタミンC)

 ・たまりを大量生産して同時に醤油もつくろう。生活必需品だから売れるはず。

 ・サツマイモ(飢饉対策)とキャベツ(ビタミンC ザーワクラウト)。これは南蛮船から手に入るかな。

 ■海(漁業?)

 ・塩は流下式塩田がいいかな? すだれを使うやつ。揚げ浜? 入浜? があったけど、これが場所もとらないからよさそう。塩は特産品にして高値で売ろう。

 ・捕鯨をする。大島と崎戸は、たしか江戸時代に捕鯨でかなり栄えたって記憶がある。五十年以上早いけど、やる。鯨油、鯨肉、その他諸々捨てるところがない。

 ・石炭は必須。燃料、暖房……は、木炭の代替えでいけるか。……蒸気、いや無理。

 そう言えば思い出した! 昔小さい頃、多分小学生くらいだったかな。実家の納屋? 小屋の中に、何本も丸太が並べてあって、小さな木の欠片が打ち込んであった。

 子供心にあれなんだろう? ってずっと思ってた。シイタケだ! ガラス瓶(これは南蛮船から)に菌糸を入れて培養する。米ぬかとか芋の煮汁とか、おがくずとか、そういうもので、やってみよう。

 それで培養が完成したら、木の割れ目に菌糸を入れて木片を打ち込んで放置。運がよければ初回から成功するだろうけど、試行錯誤が必要だから一年から五年はかかるだろう。

 それから、硝石の国産が可能になるまで、輸入硝石を独占しなきゃな。堺に流れる南蛮人の品々も、ぜんぶ豊後や肥前からだよね? もとを断ってしまえば流れない。

 火薬は1発分で15グラム。硝石が75(11.25グラム)に硫黄は10(1.5グラム)で、木炭は15(2.25グラム)。

「忠右衛門、硝石を作る準備は整ったのか?」

「は、奥野の郷にて風通しのいい小屋をたて、木の葉や・糞尿・塵芥を土と混ぜて積み上げ、間を定めて折々に尿をかける事を繰り返しております」

 忠右衛門の報告を黙って聞く。

「異臭を放つゆえ人里から離れており、道もございませぬ。また、周囲に常時見張りを立てております」

「うむ、時間はかかるかもしれぬが、早ければ一年で硝石がとれるはずだ。その後の糞尿の追加は必要だが、成功したら随時小屋を拡張していこう。それから十分に日当を払うのだぞ。臭いがきついゆえ、誰もがやりたくない仕事なのだ」

 最終目標は年間二百斤(1,500kg)。弾一発の火薬は15グラムで必要な硝石は11.25グラムだ。計算すると1万発分で約110キログラム必要になる。

 あ、鉄砲鍛冶も招いて、製造を奨励しなきゃな。そして、ややこしい! 尺貫法!

「殿」
 
「……殿?」
 
「殿!」

(もおー)なにいー!?
 
 しまった。条件反射的に声を上げて怒鳴ってしまった。

「すまぬ」

「太田屋の弥市殿が、お連れ様ご同伴でお目通りを願っております」

 小平太が言う。

「何、弥市が?」

 忠右衛門が確認する。俺は忠右衛門と顔があったので、うん、とうなずくと「通せ」と小兵太に伝えた。

 弥市を主殿に通す。……誰だ?

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