第33話 石鹸大量生産と販路拡大のまっき~!(の巻)

 書斎で書き物をしていると……。もちろん試作品の鉛筆で! 忠右衛門が入ってきた。うーん、ちょっと報告を聞くのが、気が重い。大体予想がつく。

「その後、石けんはどうだ?」
 
 まず短期間で収益をあげそうなのが、石けんと鉛筆だ。

「は、売れ行きは好調にございます。ただ……」

 ただ? と俺は聞き返した。

「原料の灰にございますが、百姓は肥料に使うため出したがりません。そのため肥料を使わない町中で賄うよりほかなりません」。

 なるほど、確かに俺の実家でも灰をまいていたな。うーん、盲点!

「さもなければ大量の薪もしくは炭が必要になりますが、買いすぎると値段が上がるため、民の暮らしを締め付ける事になります。これは油も同じです」。

 深刻な顔をしている。

「利を考えると、ひとつ十二文で販売したとして、七文ですから五百個で三千五百文となります」

 ふむ、と相づちを打つ俺。

「往復三日で一度販売すれば、月に三十五貫文となりますが、ひと月にそれだけ売る事はできません」

「なに? どういう事だ?」

「人がおらぬのです。売ろうと思えば、平戸、博多、熊本、豊後府内や薩摩など、人の多い所へ行かねばなりません」

 確かに、需要(人口)がなければ売れない。

「そうなると荷車に使う牛の餌代や、それを世話する人足代、宿賃や飯代もかさんでまいります」

 うーん、……5,000個売って月にたったの35貫(420万円、1文120円計算)にしかならないの?

 やばい、当てが外れた。もっとがっぽり儲かるはずだったのに。これ、いわゆる薄利多売ってやつ?

 数売れないなら一番やっちゃいかんやつやん! 一生の不覚!

 それにやばい! もう8月まで2ヶ月切ってる!

「わかった。それでは石けんに関しては、材料は市場価格を壊さぬ程度に買う様に。油に関しては、秋から菜種の栽培を米の裏作として行う様にさせよ」

 俺は考えながら、続ける。

「……さすれば我が領内で四百反程あるゆえ、十分な菜種をとる事ができよう。原価も下がるであろうし、余剰分は市場にまわせ」

 領民第一だからね。こりゃ本気で【特上高級しゃぼん】売らんといかんな。失敗したあ。

 ……まじ失敗したあ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました