「父上、今よろしいでしょうか?」
「おお、入れ」
短い会話のあと、障子を開けて父の部屋に入る。小平太も一緒だ。
あ、と目が合った。黒髪(当たり前か)で美人の母が隣に座っている。うーん、いつ見ても美人なんだよね。慣れない。というか変な感じ。母はまだ32歳だ。
「なんだ、吉野がいると話しづらいか?」
気にすんなよ! という感じで、子供の俺が政治に関わる重要な事を話しに来ているとは考えなかったみたいだ。
令和に生きていた俺としては男女同権。別に困りもしない。
「いえ、いつ見ても仲がいいので、夫婦とはかくありたいな、と」
そう俺は真面目に答える。
「はははは、うれしいこといってくれるねえ! なんだ、世辞を言ってもなにもでぬぞ」
親父はそういって膝をたたいた。
「もう傷は良いのですか?」
母は言葉少なにいたわってくれる。なんかこう、慈愛に満ちた感じ。菩薩様……? 癒やされるというか、なんというか。
「はい、ありがとうございます。おかげ様で完治しました」
俺は軽く頭を下げる。
「大丈夫だが、いささか記憶がな、だろ?」
親父はニヤニヤしながら俺をみる。ははは、と苦笑いしつつ、その場が静まるのをまった。
「で、どうした?」
「それでは父上にお聞きします。父上は南蛮貿易についてどう考えていますか?」
「南蛮? あの平戸のたぬきおやじがやってるあれか?」
……たぬきって、たしか歳は親父とあんまり変わらなかったと思うけど?
「やつはずる賢い。やり手というか、狡猾だからな。そのせいかわからんが、吉野の国許も押され気味だ」
母が少しだけ悲しい顔をする。母の実家は松浦宗家で平戸松浦氏の主筋にあたるのだが、北から領国を侵食されつつあるのが現実だ。
「良くも悪くも、どうしようもないな」
親父は続ける。
「まあ、平戸の強さは南蛮貿易の利益に裏打ちされている。鉄砲にしろ弾薬にしろ、そして俺たちと同じように水軍で税をとりつつ、領地から年貢、そして交易で儲けている」
「そのとおりです。では、その南蛮貿易の利益を、平戸から奪うことができたらどうでしょう?」
「なに?」
親父の顔から笑顔が消えた。
「そんな事ができるのか?」
……はい。そのためには父上の協力が必要です。
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