第46話 『初詣とスカートの中と愛撫』

 1986年(昭和61年)正月 <風間悠真>

 初詣には行った記憶がない。

 というのは言い過ぎだが、行ったのは社会人になってからだ。

 宗像大社や川崎大師、その他にもあるが、ようやくできた彼女と行ったのが記憶に残っている。

 だから、オレの家では家族で初詣なんてしきたりはなかったし、どうなんだろう? 友達も初売りに行ったという話は聞いても、初詣はあまり聞かなかったような気がする。

 というか去年もそうだった。正月は家族で過ごし、佐世保の初売りに行ってギターを買った。




「あ、悠真! 明けましておめでとう。今年もよろしくね♡」

 子供のころ、というかこれは社会人になってもそうだったかもしれないが、好きな子に会いたくて、少しでも話をしたくて、その子がいそうな場所や移動経路に理由をつけては行ったもんだ。

 ストーカーなんて野暮なこと言わないでくれよ。純粋に、ただ純粋に出会いを求めていたに過ぎないんだから。

「おお! 美咲♪ なに? 1人? 家族と来たの?」

「ううん、1人なの。家族と一緒に来たんだけど、別行動。先に帰ってもいいって」

 美咲がほおを染めながら答える。クリスマスの記憶が、まだ新鮮に残っているんだろう。

「そっか。じゃあ、一緒に参拝する?」
 
「え? あ、うん……でも、悠真は家族と来てないの?」

「ああ、うちはあんまりそういう習慣がなくてさ。初売りには行くけど」

 境内は確かに人混みでごった返していたが、由緒正しいとはいっても小さな神社だ。

 数組の参拝客が思い思いにお参りをしているが、大きな神社みたいに整然と並ぶような場所もないから、みんな適当に間隔を空けて参拝している。

 ただ神社の境内の下の大通りは混雑していた。

「じゃ、じゃあ……一緒にお詣りしよっか」

 美咲が小さな声で言った。ピンク色のセーターに紺のスカート姿の美咲は、いつもと違う雰囲気だ。クリスマスのコスメセットで化粧してきたのかな。

 いや、そこまでじゃないか。

 賽銭さいせんを投げながら、美咲が急に真剣な表情になる。

「あたしね……」

「んー?」

 首に巻いたマフラーに顔を半分埋めるように、小さな声で話しかけてきた。

「もう願い事決めたの」

「へぇ、なに?」

「も、もう! 聞かないでよ、バカ!」

 え? いや、聞いてほしいから言ったんじゃないのか? この頃から女の気持ちがわからん!

 美咲は慌てて鈴を鳴らし、手を合わせた。

「……でも、その……叶うといいな」

 大通りの騒がしさが遠くに聞こえる。小さな神社なのに、今日は珍しくにぎやかだ。子供の頃はこうやって神社に来ることもなかったな。

「ね、悠真の願い事は?」

「それは内緒」

「もー! ずるいよ!」

 何がずるいのかわからないが、美咲が膨れっ面をする。寒さで頬が赤くなっているのが、かわいい。

 クリスマスにキスして、胸を触って、スカートの中に手を入れたのがつい最近なのに、今はそんな雰囲気じゃない。神聖な場所だからか、それとも昼間っから人が多いからか。

 まあオレの願いは決まっている。卒業までに美咲とセックスすることだ。それ以外に、ない。……あ、いや、あった。凪咲なぎさ純美あやみと礼子と菜々子と恵美とセックスすることだ。

「ね、悠真……」

 美咲がコートの袖を引っ張る。手袋越しの感触。

「今年も……よろしくね。っていうか、絶対によろしくしなさいよ!」

 え、なんだろうなこの突然のツンデレ豹変ひょうへんイベント? まあ、それも含めてかわいいんだけれども。

 境内の賽銭箱に硬貨が当たる音と鈴の音が続いている。オレは美咲の言葉を聞いて気持ちを新たにした。正直に言えば、いや、言わなくても美咲のことは好きだ。

 でも、凪咲も純美も礼子も菜々子も恵美も好きなんだ。結局のところ、オレは前世でモテなかった反動なのかもしれない。今、こうして複数の女の子と関係を持てる状況に、完全に溺れている。

 反動というよりも、そう決めたんだ。やってやる、ってね。

「うん、よろしく」




 神社を出るとき、美咲がまたオレの袖を引っ張った。

「ねぇ、おなかすいてない?」

「ん? ああ、そういえば……」

「じゃあ、ラーメン屋さん行かない? あたし、お年玉もらったんだ♪」

「おごってくれるの?」

「もう、そういうこと言うと、おごらないんだから!」

 結局、オレが払うんだろうな。

 そう思いながら、美咲と一緒に階段を下りていった。大通りの人混みの中に消えていく二人。元旦に店が開いているなんて今では当たり前になったけど、当時はあり得なかったんだ。

 普通の店は三が日が明けてから初売りするし、飲食店にしたって初売りはないけど、それでも三が日以降に仕事始めになる。それは転生した今世でも同じだ。

 年末年始は家族と一緒に過ごす。これが基本だったのだ。

 しかし、この神社周辺の飲食店は違った。参拝客がいるので店を開けば客が入るのだ。そのためラーメン屋は大盛況している。その名も五峰亭。いかにもだが、あごだしラーメンはうまい。




 ラーメンを食べ終わったオレは美咲を家まで送っていった。
 
 家族と別行動というのは本当だったようだ。まあ、家から1時間もかからない場所にあるし、行きは家族と一緒に来て、別行動をとったようだ。

 でもその途中に例の神社がある。初詣の神社ではなく、無人の小さな神社。

 いつも美咲と寄り道して時間を過ごすあの神社だ。というよりもわざと回り道をしたのだ。まっすぐ帰れば通らない。美咲はそれに関して何も言わなかった。

 期待していたのだろうか?

 ただ、黙って顔を赤くしている。

「悠真……♡」

「美咲……♡」

 真っ昼間だが、誰もいない。さびれた神社だが、晴れやかな元旦から、こんなことをするのは気が引けた。……が、まあいい。気にしてもしょうがない。あとでお賽銭を入れておこう。

「ん……」

 キスをして胸をもんで、そしてスカートの中に手を入れる。まだ2回目だから美咲の体から緊張が感じられる。そういえば……オレは処女とそういう関係になったことがなかった。

 まあ付き合う前からあなたは処女ですかって質問するわけにもいかず、結果論的にオレ自身が経験する時期が遅かったので、相手が全員経験者だったというのもあるのかもしれない。

 だから、厳密に言えば、処女に対する正しい接し方というのは、実体験では知らない。

 ただ、それに近い経験をしたこともあるし、おおよその見当はつく。相手の経験が豊富なほど、いろいろとはしょってもいいプロセスが増えてくるものだ。

 だからゆっくり、ゆっくり、やさしく、やさしく手をはわせ、キスをしたり、舐めたりした。耳たぶや首や鎖骨の辺り……。

 多分、美咲に限ったことじゃないが、『あ……』とか『ん……』というのは感じているというよりも、緊張してぐっと力を入れるとか、その行為に対しての自然な反応というのが正しい表現だろう。

 今回は、手をその中にまで入れてみた。ちょっとした驚きはあったようだが、抵抗というほどでもない。やさしく、やさしくその周辺をなでて、終わった。




 ちゃりんちゃりーん。

「今年も、そして来年も、未来永劫ハーレムモテモテやりやり金持ちになりますように」

(欲張り!)




 次回 第47話 (仮)『凪咲と純美、午前と午後の初詣』

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